研究課題
本研究課題の目的はマルチモーダルMRI解析を用いて、客観的PD診断評価法の開発とPD病態の神経基盤を解明することである。本年度は“客観的PD診断評価法の開発”として、神経メラニンMRIの自動定量を可能とする人工知能手法を開発し報告した(Le Berre, et al. Neuroradiol 2019)。従来、神経メラニンMRIで黒質緻密部のメラニン信号を定量する際には測定者が黒質緻密部を用手的にトレースする必要があり、測定に時間がかかる点、観察者の恣意が入りうる点などが問題であった。そこで我々はU-netと呼ばれる深層学習法を用いた神経メラニンMRIを基に黒質緻密部の自動抽出を精度良く行う手法を開発した。さらに“客観的PD診断評価法の開発”の有用な候補として期待される神経突起イメージング(NODDI)の精度評価を行い、異なるMRI装置を用いても定量値の再現性が高いことを報告した(Andica C, et al. Neuroradiol 2020)。また自由水イメージングを用いるとPDにおける神経炎症を反映すると思われる変化を検出しうることを報告した(Andica C, et al. Cells 2019)。さらに本研究のもう一つの目的である“PD病態の神経回路基板解明”を達成すべく、本年度はPD患者の生活の質に大きな影響を与える認知障害・精神症状に焦点を絞り検討を行い、神経突起イメージングを用いて認知障害・精神症状を伴うPDでは後頭・頭頂葉など脳の後方部分の神経突起密度指標の低下が強いという神経基盤解明につながる新知見を得た(Andica C, J Neurosci Res. 2020)。加えて、これらの研究結果を含む総説論文を発表し、広く研究結果の普及に努めた(Andica C, J Magn Reson Imaging 2019)。
2: おおむね順調に進展している
当初の今年度の研究計画は、特発性PD及び類縁疾患患者・健常者(PD患者50例、類縁疾患患者50例、健常対照者50例)を対象に高精度MRIデータを臨床データ(詳細な臨床情報、神経心理検査、血液・髄液データなど)と共に取得することであった。本年度は当初の研究計画に沿って、特発性PD及び類縁疾患患者・健常者(PD及び類縁疾患患者100名、健常対照者50名程度)のMRIデータ・臨床データ収集を終えており、研究は計画通り順調に進行している。さらに既存データを用いて、本研究の目的である“客観的PD診断評価法の開発”として、神経メラニンMR Iの自動定量を可能とする人工知能アルゴリズムの開発を行った(Le Berre, Neuroradiol 2019)。さらに“客観的PD診断評価法の開発”の有用な候補として期待される神経突起イメージング(NODDI)の精度評価を行い、異なるMRI装置を用いても定量値の再現性が高いことを報告した(Andica C, et al. Neuroradiol 2020)。合わせて、本研究のもう一つの目的である“PD病態の神経回路基板解明”を達成すべく、本年度はPD患者の生活の質に大きな影響を与える認知障害・精神症状に焦点を絞り検討を行い、認知障害・精神症状を伴うPDでは後頭・頭頂葉など脳の後方部分の神経突起密度指標の低下が強いという知見を得た(Andica C, J Neurosci Res. 2020)。PDの認知障害・精神症状は後頭・頭頂葉の神経突起密度の変化がその神経基盤となっている可能性を示している。さらにこれらの研究結果を含む総説論文を発表し、広く研究結果の普及に努めた(Andica C, J Magn Reson Imaging 2019)。
研究遂行に必要なPD及び類縁疾患患者のリクルートは当初の計画通り順調に進行している。次年度も引き続き、PD及び類縁疾患患者のリクルートを進め、高精度MRIデータを臨床データ(詳細な臨床情報、神経心理検査、血液・髄液データなど)と共に取得する。さらに収集したMRIデータを元にマルチモーダルMRI解析を用いて、客観的PD診断評価法の開発とPD病態の神経基盤解明を進める。具体的には取得データを元に定量MRI解析を行い、脳容積・皮質厚・神経突起イメージング定量値・拡散MRI定量値、メラニン量、脳ネットワーク指標などを算出し、他の神経変性性パーキンソニズムなど類縁疾患や健常群との比較を行い、PD脳で生じている特異的な変化を検出する。特定された脳領域および定量値変化について、疾患重症度や罹病期間との相関解析を行い、疾患進行による定量値変化を検討する。合わせて、ドパミントランスポーターSPECTを用いて線条体におけるドパミン活性の定性・半定量化を行い、他のPD類縁疾患との集積分布の違い、半定量値の変化を同定する。さらに得られた解析結果を用いて統合的なマルチモーダル解析を行い、客観的PD診断を可能とする定量値算出を行い、重症度・罹病期間との相関解析を行う。併せて定量値が変化する脳領域を抽出し、PD病態の神経基盤同定を目指す。
当初、本研究課題に関連する研究結果の発表を予定していた第22回日本ヒト脳機能マッピング学会がコロナウイルス蔓延の影響で次年度へ延期となったため、出張費用への支出がキャンセル料のみとなったため。次年度使用額は延期となった第22回日本ヒト脳機能マッピング学会への参加費用に充当するものとする。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Journal of Neuroscience Research
巻: 98 ページ: 936~949
10.1002/jnr.24584
Neuroradiology
巻: 62 ページ: 483-494
10.1007/s00234-019-02350-6
Cells
巻: 8 ページ: 839~839
10.3390/cells8080839
Journal of Magnetic Resonance Imaging
巻: - ページ: -
10.1002/jmri.27019
巻: 61 ページ: 1387~1395
10.1007/s00234-019-02279-w