研究課題/領域番号 |
19K17256
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
亀田 浩之 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (70829887)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | glymphatic system / 水動態解析 / 核磁気共鳴画像(MRI) / 同位体顕微鏡 / 安定同位体 |
研究実績の概要 |
17O-MRIによる脳脊髄液動態の画像解析法を確立する上で、初年度に課題となったMRIの画質に関して、特注の小動物用8chコイル(高島製作所)を導入し、撮影条件の最適化を行い、本研究に必要な画質の改善を図ることができた。これと併せ初年度に確立したMRI撮像下の脳槽投与法を用いて、麻酔下の野生型ラットにガドリニウム造影剤を髄注したところ、脳脊髄液中のガドリニウム造影剤の分布の経時的変化を追跡することができた。さらには、17O標識水を注入しながらMRI撮像し、脳脊髄液中の17O分布を経時的に確認することができた。また、学内の研究用ヒト用3T-MRI装置(PRISMA, Siemens)だけでなく、研究協力施設の実験動物中央研究所の小動物用7T-MRIでも同様の結果を確認し、さらには脳実質への17O分布変化も捉えることができた。この他、安定した17O濃度マップを得られるよう既存のT2 mappingを改良し、麻酔下の野生型ラットでも高速かつ良好な17O濃度マップを取得することができた。ただし、疾患モデル動物への17O標識水の投与による実際の検証については、MRI装置の一時的な故障とコロナ禍における疾患モデル動物の搬入のタイミングが合わず、次年度となった。
組織レベルでの脳内17O分布を同位体顕微鏡でみるための初期検討として、17O標識水よりも高濃度製剤が存在する18O標識水を野生型個体に投与し、脳組織の凍結切片を作成し、現行の同位体顕微鏡セミクライオシステムでその同位体分布を検討した。その結果、脳血管に一致したコントラスト良好な18O分布を確認することができた。ただし、初年度での重水(D2O)を用いた検討と同様に、観察した18O/16O存在比が理論値よりもかなり低く、凍結試料の処理や解析の過程で、本研究で標的としている水分子が蒸発/昇華している可能性が考えられた。これに対する対策を本年度末から次年度初めにかけて行っており、疾患モデル動物での検証は次年度となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特注の小動物用8chコイル(高島製作所)を導入や、既存のMRI撮影法(T2 mapping)の改良により当初の遅れを取り戻すことはできたが、研究に使用しているMRI装置の一時的な故障とコロナ禍における疾患モデル動物の搬入のタイミングが合わず、当初予定していた疾患モデル動物での検討が次年度となった。
同位体顕微鏡解析においては、外因性に投与した同位体トレーサー(18O標識水)の解剖学的構造に一致した分布を捉えることができたという大きな進歩があったものの、その測定値は理論値よりも低く、現行の同位体顕微鏡システムでの凍結含水試料のイメージングには課題がある。同位体顕微鏡解析をする凍結含水試料作成の質を向上するため、急速凍結処理や切片作成の工夫、凍結試料切片への品質の高い金塗布、同位体顕微鏡のクライオステージに設置するまでの各種手順や条件を改良する必要があり、本年度はこれに時間を要したため、17O標識水を投与した疾患モデル動物での検証は次年度となった。
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今後の研究の推進方策 |
17O-MRIによる脳脊髄液動態の画像解析法においては、初年度から本年度にかけて確立した17O-MRI撮影法を野生型ラット複数個体で実施し、個体間のばらつきなどを検証することで、本手法の妥当性を確認する。その後、正常ラット、疾患モデルラット(AQP4 inhibitor投与、アルツハイマー病、くも膜下出血など)での17O標識水髄液投与下のMRI撮像を完了する。その解析結果を正常個体と疾患モデル個体で比較し、両者を弁別する脳脊髄液動態異常を示す画像的指標を見いだせるか検証する。実験結果によっては、実験動物中央研究所の小動物用7T-MRI装置でも同様の検討を同時並行で進めていく。
同位体顕微鏡クライオシステムでの凍結含水試料の解析における水分子の蒸発/昇華の問題について、常温下での試料への金蒸着処理が大きな原因と考えている。この問題の解決のため、低温下での金蒸着が可能な装置が施設内に本年度末導入され、現在解析手順を調整中である。調整が終わり次第、次年度の早い段階で正常ラットおよび疾患モデルラットでの17-O/18-O標識水やGd造影剤髄注後の脳内分布を同位体顕微鏡で解析し、光顕像や電顕組織像と対比することで、その組織中の同位体分布の確認を行う。その組織学的な17O分布の違いを正常ラット個体と疾患モデルラットで比較することで、脳内リンパ系(glymphatic system)の基本的なメカニズムを解明するとともに、両者を弁別する脳脊髄液動態異常の機序を明らかにする。また、同位体顕微鏡での解析結果を用いて、17O-MRI解析で得られた画像的指標の妥当性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年度に引き続き、世界的な新型コロナウイルス感染症の影響で、特に研究協力施設での実験や学会参加・発表に関連する旅費で十分に使用することができなかった。次年度には、実験動物中央研究所でのMRI撮像の検討、および学会参加に要する費用として使用する。
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