本研究は、独自に樹立した放射線耐性細胞株を資材とし、放射線耐性化機序と責任分子を明らかにし、がん放射線治療に実用可能なバイオマーカーと新規治療戦略を開発することを目的としている。これまでに口腔扁平上皮癌細胞株 SAS およびその放射線耐性細胞株である SAS-R を用いた解析から、protein disulfide isomerase(PDI)や peroxiredoxin (Prx) などの酸化ストレス応答関連タンパク質が SAS-R で増加していることを明らかにした。また、細胞内外の過酸化水素除去能を持つことが知られている Prx4は、放射線によって生じる酸化ストレスの細胞障害を抑制する役割を果たし、放射線耐性能に関与している可能性を見出している。申請時は、耐性化に至るまでの周辺分子の時空間的な動きを詳細に定量化し、評価を行うと共に、特異的阻害剤などの検証する計画であったが、研究代表者の異動により、研究環境が大きく変化したことに加え、COVID-19 の影響により、前任施設へ訪問できず、予定した研究が全く実施できない状態が続いていた。 そのため、今年度は、研究方針を変更し、放射線耐性細胞のメタボローム変動を詳細に把握するための新規分析系の構築に着手した。特に、LC-MS における特殊分析カラムを用いた親水性代謝物の一斉定量系や、カルボキシル基含有代謝物の網羅的相対定量・絶対定量系を立ち上げ、バリデーションを進めている。
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