研究課題/領域番号 |
19K17260
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研究機関 | 群馬県衛生環境研究所 |
研究代表者 |
小林 大二郎 群馬県衛生環境研究所, 研究企画係, 研究員 (30827225)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 微小核 / 子宮頸癌 / 放射線治療 / cGAS / STING / 免疫治療 / アブスコパル効果 |
研究実績の概要 |
免疫治療はがん治療において近年急速に発展を遂げている。放射線治療と免疫治療を組み合わせることで治療効果の向上が認められ、今後さらなる併用療法の開発と治療成績の向上が望まれる。近年、基礎研究の場において、放射線照射はがん細胞のPD-L1発現を亢進させることが明らかとなった。その主たるメカニズムの一つに細胞質DNAによるcGAS-STING系の活性化がある。すなわち、放射線照射を受けたがん細胞が異常な有糸分裂を起こし、それによって細胞質に漏出したDNAがcGAS-STING系を活性化させ、Ⅰ型インターフェロン誘導を介してPD-L1発現を亢進させる。「微小核(micronuclei)」は同現象の代替指標であり、臨床現場において、放射線治療による微小核の発現亢進は末梢血リンパ球細胞では証明されている。しかし、放射線治療をうけた固形腫瘍における微小核の誘導は未だ証明されていない。このことは放射線治療における抗腫瘍免疫誘導の臨床的概念実証の不在を示している。以上から、本研究は放射線治療を受けた固形腫瘍における微小核発現変動を調査することを目的とした。 根治的放射線治療を受けた子宮頸癌患者から治療開始前ならびに10 Gy/5分割時点で腫瘍組織を採取した。腫瘍細胞を遠心単離し、paraformaldehydeで固定したのち、4,6-diamidino-2-phenylindole dihydrochlorideで免疫蛍光染色した。標本を蛍光顕微鏡で観察し、細胞核あたりの微小核数ならびにピクノーシスを指標としたアポトーシスを定量した。微小核ならびアポトーシスの数をWilcoxon testを用いて放射線照射前後で比較した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
7症例・合計200核を評価した結果、放射線照射後における微小核数は、放射線治療前と比較して有意に多かった (治療前28 (0 - 61) vs. 治療後151 (16 - 327); P = 0.015)。一方、アポトーシスの発現率は放射線治療前後で有意差はなかった (治療前5 (0 - 30) vs. 治療後12 (2 - 30); P = 0.30)。以上から、放射線治療が固形腫瘍において微小核を誘導することが世界で初めて直接的に証明された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究成果を礎とし、私は放射線治療と免疫治療の併用療法における理論的根拠を確立したい。肺癌に対する放射線治療後、免疫療法併用による高い治療効果がPACIFIC trialの結果として報告され、臨床で広く行われている。現在、他がん種においても臨床試験が組まれ放射線治療と免疫療法の併用法の知見が集積されている。免疫療法併用放射線治療の理論的根拠として、放射線治療後のPD-L1の発現誘導があげられる。放射線治療後に抗PD-1/PD-L1抗体を併用することで、さらなる腫瘍制御の向上が期待できる。しかし、過去の報告においては放射線治療後のPD-L1発現は一定の結果が得られていない。これは免疫療法併用放射線治療の治療効果を予測するバイオマーカーの不在を意味する。本研究で我々は腫瘍内における微小核発現上昇を確認したが、末梢血中の微小核発現上昇との相関は未知である。腫瘍中の微小核誘導率と血漿中の微小核誘導率の相関を示すことで、より簡便にPD-L1発現予測モデル、さらには免疫療法併用放射線治療の治療効果予測モデルの確立が可能になる。我々は今後、放射線治療後の微小核発現率推移、免疫療法開始時期の最適化モデルの開発を目指す。具体的には以下の研究を行う。 ①ヌードマウス・ヒト癌細胞株(具体的にはHeLa)移植片を用いた照射実験により腫瘍組織中のPD-L1発現と微小核発現、血液中の微小核発現に関する経時的データを網羅的に取得する。 ②子宮頸癌患者の臨床検体を用いて放射線治療中、治療後の生検、採血データを取得する。 ③①、②のデータから放射線治療患者におけるPD-L1発現予測アルゴリズムと免疫療法開始時期を最適化するモデルを作成する。 以上により、免疫療法併用放射線治療の確立にさらなる貢献をしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会に参加予定だったが当該年度はコロナ禍にあり現地渡航が難しくweb参加となった。それに伴い旅費が不要になるなど支出が大幅に減った。次年度はコロナワクチンの普及によりある程度の現地開催が見込まれる。次年度使用額は当該年度に参加できなかった学会参加費等に充当したい。
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