研究課題
本研究では,MR融合放射線治療装置(MRリニアック)における新たな吸収線量計測法の開発と線量標準の確立を目的に研究を行った.研究では,ビーム方向に垂直な静磁場が線量計の感度に与える影響を明らかにした.電離箱線量計では,静磁場が感度に与える影響は,線量計の有感体積,線量計と静磁場の向きの関係性,静磁場強度等に依存した.また,電離箱線量計は有感体積が空気で構成されており,密度が低いため,2次電子の飛程が大きく,他の線量計に比べ,静磁場による感度変化が大きくなった.一方,蛍光ガラス線量計は,有感体積が密度の高い銀活性リン酸塩ガラス素子で構成されており,電離箱線量計に比べ,静磁場による感度変化は小さくなった.しかしながら,蛍光ガラス線量計においても,電離箱線量計と同様に,静磁場による感度変化は,線量計と静磁場の向きの関係性,静磁場強度に依存した.加えて,蛍光ガラス線量計は,ガラス素子への汚れの付着を防止するために,プラスチック製のホルダに封入して使用される.その際,ホルダとガラス素子の間には隙間があるため,静磁場下ではこの隙間により,Electron Return Effectを生じ,ホルダが無い場合に比べ,ホルダがある場合では静磁場による感度変化が大きくなった.このように,静磁場下での放射線治療では,低密度領域において大きな線量変化を生じるため注意が必要ある.一方で,ビームに平行な静磁場下では,静磁場による線量増強が見られ,とくに孤立性肺がんのような周りを低密度領域で囲まれた腫瘍では大きな線量増強効果が得られることが期待された.本研究の結果から,MRリニアックにおける線量計測法の確立と蛍光ガラス線量計を用いた線量標準の確立の可能性が示された.一方,個別の患者の線量検証等では,不均質領域における線量計の感度変化を明らかにすることが必要であると考えられる.
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Radiation Physics and Chemistry
巻: 194 ページ: 110036~110036
10.1016/j.radphyschem.2022.110036