脂質アルキルラジカル(脂質ラジカル)は、脂質過酸化の起点となる物質であり、種々の疾患との関連が報告されている。近年、肝がんモデル動物において脂質ラジカルの産生が増加していることおよび脂質ラジカル消去処置によりがん化を抑制できることが、in vitro蛍光検出試薬・治療化合物の開発により実証された。しかし、細胞レベルとヒト(動物)個体レベルでは周辺環境の違いから酸素分圧が異なる。さらに、生物個体での計測技術も未開発なため、生体内での脂質ラジカルの実態はいまだ不明である。そこで、生体膜内に発生した脂質ラジカルと化合物が化学反応により生体膜内に捕捉・蓄積されることで、高感度・定量的な脂質ラジカル検出を達成できるのではないかと着想し、生体内脂質ラジカルを非侵襲検出する核医学分子プローブの開発を目的とし研究を実施した。 2019年度は、脂質ラジカル反応性を示す放射性プローブの合成を実施し、目的とするI-125標識化合物を得ることに成功した。本化合物が、脂質ラジカルに対し選択的な反応性を示すことを確認した。また、標識体を培養細胞に添加し、脂質ラジカル産生および非産生条件で比較したところ、脂質ラジカル産生条件において高い細胞内滞留性を示したことから、当初の目的とする機構による蓄積性が示された。 2020年度(最終年度)は、動物モデルでの検証を実施した。薬剤誘発性脂質過酸化亢進モデルマウスに、開発した化合物および反応性を消失させた対照化合物を投与したところ、脂質過酸化が亢進している標的臓器(肝、膵など)へ優位に高い集積性を示した。以上の結果より、開発化合物が脂質ラジカルを非侵襲計測可能な核医学分子プローブとして機能する可能性が示された。
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