本研究はラット半月体形成性腎炎モデルにERK1/2のリン酸化を阻害するMEK1/2阻害剤およびERK5のリン酸化を阻害するMEK5阻害剤を投与することにより、その腎炎進展の抑制効果を検証したものである。ヒトの腎病態においてERK経路阻害剤が腎炎進展にどのような作用をおよぼすかはいまだ不明であるが、ヒトの腎炎においてERKシグナルを介したメカニズムは重要な病態制御機構であり、ラットにおける腎炎進展抑制効果を立証し、将来的にはヒトへの臨床応用を行うことで、既存の治療に抵抗する難治性腎炎に対し新たな治療法を確立することを目的とした。初年度にはラット半月体形成性腎炎モデルを作成し、糸球体が線維化・硬化にいたるまでの因子変化を確認した。最終年度はラット半月体形成性腎炎モデルにMEK1/2阻害剤およびMEK5阻害剤を投与し、正常対照群および無治療腎炎群と比較した。結果として、直接指標となる半月体形成率の検討において、MEK1/2阻害剤投与群では無治療腎炎群と比較して形成率の低下が認められた。またMEK5阻害剤投与群でも形成率の軽度低下が認められた。また、尿蛋白量の検討においては、MEK1/2阻害剤投与群では腎炎無治療群と比較して尿蛋白量の低下が認められた。一方、MEK5阻害剤投与群では尿蛋白量のあきらかな差異は認められなかった。本研究から半月体形成性腎炎におけるERK経路の関与およびERK経路阻害剤の効果を確認することができ、今後投与方法の工夫や投与量の調整など引き続き研究を継続していくことにより、ERK経路を治療標的とするあらたな治療法の開発につながりうるものと考えている。
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