研究課題
Schaaf-Yang症候群 (SYS)の臨床像を確立し 、発症メカニズムを解明することが本研究の目的である。患者集積に関しては、全国からの患者集積のために、SYSの診断基準の策定を行なった。さらに、SYS厚生労働研究班において疾患啓発のホームページが作成され、遺伝子解析を引き受ける体制が確立した。これにより全国の患者の診断体制が整備されたことで、患者レジストリーの作成の基盤が確立した。SYSのモデルマウスの作成に成功し、遺伝学的及び表現型解析を行なった。モデルマウスとしては、Magel2遺伝子の5’側の約半分を過剰発現するトランスジェニックマウス(Tgマウス)及び、1690番~1924番の235塩基欠失のフレームシフト変異を有するノックアウト (KO) マウスを作成した。Magel2はイントロンレスの遺伝子であり、nonsense mediated mRNA decay (NMD)が起こらず、短縮型の蛋白が発現する。Tgマウスは強い表現型を示し、多くが胎仔期に発生が停止した。一部が出生したものの、新生仔早期に死亡した。出生した仔は強い低体重を示した。これらの結果から、短縮型Magel2の過剰発現は強い毒性を示す可能性が示された。一方、KOマウスはヒト患者と比較して軽症の表現型を示した。KO マウスにおいては、ゲノムインプリンティングは正常に保たれ、また、変異mRNAの分布も保たれていた。KOマウスの表現型としては、出生時には対照と比較して体重が軽かったが、成長に伴い、キャッチアップを示した。
2: おおむね順調に進展している
Magel2の機能を解析するためには、モデルマウスが必要である。これまでに開発されたモデルマウスはMagel2の欠損マウスであるである。私たちはSYSの発症メカニズムとして機能獲得型変異の仮説を立てた。これを実証するためには、従来のモデルマウスでは不十分である。そのため、私たちは2種類のモデルマウスの作成を行なった。短縮型Magel2を過剰発現するTgマウスは胎仔期もしくは新生仔早期に死亡するために、その後の解析が困難であった。一方、フレームシフト変異を導入したKOマウスは短縮型Magel2を発現していることが確認され、また、その分布及びインプリンティング発現が保たれており、世界初のモデルマウスである。本モデルマウスは機能獲得型変異仮説を実証することが可能な唯一の動物モデルである。現在、本モデルマウスを用いて機能解析及び行動解析を予定しており、多面的な解析を行なっている。さらに、ヒトSYS患者の集積においては、全国から患者を集積する体制の確立を行うことができた。日本人SYS患者の解析センターとしての機能が期待され、臨床情報の集積が可能である点で、順調に進展していると考える。
①ホームページを通して、遺伝子解析を提供するシステムが確立した。日本人患者の集積を進め、患者レジストリーの構築を継続する。遺伝型表現型相関情報の集積を進め、SYSの臨床症状の全貌の解明を進める。②MAGEL2蛋白は、逆行性輸送に関与していることが知られている。MAGEL2変異に伴う逆行性輸送経路の障害がSYSの発症に関与していると考えている。私たちが作成したKOマウスから神経細胞を樹立し、レトロマー機能の評価を行う。具体的にはレトロマーを構成する蛋白の評価をウエスタンブロットで解析する。さらに、膜蛋白のダイナミズムを評価する。③私たちが作成したKOマウスの機能解析及び行動解析を実施する。具体的には睡眠リズムの解析を準備している。さらに、名古屋市立大学にマウス行動解析装置が整備されることが予定されおり、総合的な行動解析を行う。
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