研究課題/領域番号 |
19K17309
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
石崎 怜奈 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70528299)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | IP3R2 / 肺動脈平滑筋 / 発生 / 総動脈幹症 / Tbx1 |
研究実績の概要 |
心臓流出路異常などの重症先天性心疾患には、しばしば肺動脈異常が合併するが、肺動脈の発生および肺動脈異常の発症機序については、これまで肺動脈特異的分子マーカーがなく、十分に研究されていなかった。これらを明らかにするため、IP3R2遺伝子の翻訳開始領域にLacZマーカー遺伝子を挿入したIP3R2-LacZマウスを用いた。肺が発生する胎生9.5日以降、胎生18.5日までのIP3R2-lacZマウス胎仔肺でLacZ染色をおこない、肺動脈を観察した。肺動脈で平滑筋が同定される胎生11.5日には二本の肺動脈が染色され、胎生が進むにつれ、肺内の肺動脈が徐々に分岐しながら肺の末端まで広がっていく様子を可視化することが出来た。また、LacZ発現は血管内皮には認められず、肺動脈平滑筋に限局していた。この解析により、肺動脈平滑筋は心臓流出路から肺の末梢へ広がっていく様式で発生することが明らかになった。 次に、このマウスを用いて肺動脈と心臓流出路の発生様式を解析した。胎生13.5日における心臓流出路の平滑筋におけるLacZ発現は、大動脈基部に強く、肺動脈基部で弱く、肺動脈分岐部で強くなる分布を示した。心臓流出路領域における発現分布の検討より、LacZは二次心臓領域の一部に発現していると考えられた。この心臓流出路におけるLacZ発現分布の差によって大動脈と肺動脈の基部を区別することができると考え、IP3R2-lacZ マウスとTbx1neo/+マウスを交配し、総動脈幹症を発症するTbx1neo/neoマウスの総動脈幹におけるLacZの発現分布を観察した。このマウスでは、流出路から出る総動脈幹の基部の平滑筋は強く染まり、野生型の肺動脈基部で認められたLacZ発現の弱い部位は存在しなかった。以上より、Tbx1neo/neoマウスでは、肺動脈の基部が形成されないために総動脈幹症が発症する病態が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)IP3R2-lacZマウスを用いて各発生段階に応じた肺動脈形態の経時的変化をX-gal染色及び、免疫組織染色によって観察した。 2)IP3R2-lacZマウスを用いて各発生段階に応じた心臓流出路形態の経時的変化を観察した。IP3R2-lacZ陽性細胞と心臓流出路発生に関わる細胞群との関連を明らかにした。 3)IP3R2lacZ/lacZ :Tbx1neo/neoマウスで認められる総動脈幹症におけるIP3R2-lacZ陽性部位の分布を観察することにより、総動脈幹症の発症機序を明らかにした。 4)IP3R2lacZ/lacZ :Tbx20+/-マウスの胎仔を得るための交配により、Tbx20+/-マウスが増えている。
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今後の研究の推進方策 |
1) 肺動脈形態の経時的変化:2型肺胞上皮マーカーTTF-1と共染色をおこない、肺の発生 過程におけるIP3R2-LacZの標識部位の特定、肺動脈の発生に伴う変化を詳細に観察する。 2) IP3R2-lacZマウスを用いた各発生段階に応じた心臓流出路形態の経時的変化:胎生13.5日以前の胎生の解析も継続して行う。また、二次心臓流出路領域マーカーや心臓神経堤細胞マーカーとの共染色もおこない、IP3R2と心臓流出路発生に関与する細胞群との関連をさらに詳細に検討する。 3) 総動脈幹症における肺動脈および心臓流出路異常の発症機序:Tbx20+/-マウスの胎仔を得るために、IP3R2-lacZマウス(IP3R2lacZ/lacZ)とTx20+/-マウスを交配し、IP3R2lacZ/+ :Tbx20+/-マウスを作製する。胎生10.5日から出生直前まで、経時的に肺動脈や心臓流出路におけるIP3R2-LacZマーカーの発現を野生型と比較し、Tbx20-/-の心臓流出路異常の発症機序について解析する。
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