研究実績の概要 |
一般的に、新生児脳症(Neonatal encephalopathy: NE)の重症度判断にはSarnatやThompsonの提唱した重症度分類が用いられるが、主観的な要素に左右され、必ずしも客観的とはいえない点が問題点である。軸索、シナプス前終末に豊富に存在する細胞骨格蛋白質であるα-Ⅱ spectrinは、calpainを介した細胞死の過程で分子量 145 kDaのspectrin break down product (SBDP) 145が、caspase 3を介したアポトーシスの過程で分子量 120 kDaのSBDP 120が産生される。これら蛋白質のバイオマーカーとしての有用性を検討するのが本研究の目的である。 令和2年度は、NE児の血清SBDP 145及びSBDP 120値を測定し、児の予後との相関から、新生児脳症の病態、及び神経学的予後診断のバイオマーカーとしての有用性を検討した。 令和2年度は、臨床的診断からNEと診断した9名(軽症NE群3名、中等症NE群3名、及び重症NE群3名)において、日齢0、3、及び7における血清SBDP 145及びSBDP 120値をELISA測定キットを用いて測定した。また、当院に入院した新生児のうち、明らかに仮死のないと判断された新生児呼吸障害、あるいはsmall for gestational ageの3名をコントロール群として、同様にSBDP 145、及びSBDP 120 値を測定した。重症NE群の日齢0血清SBDP 145値は、コントロール群、軽症NE群、及び中等症NE群に比し、有意に高値であった。日齢0, 3, 及び7における血清SBDP 145値、日齢0,3及び7における血清SBDP120値は、各群間で有意差を認めなかった。これらの結果から、日齢0の血清SBDP 145値は、重症NEの診断に有用と考えられた。
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