本研究は、以下の3つを目標としている; 1) KCNQ2脳症患者由来の遺伝子変異を保有するKCNQ2脳症モデルマウス(KCNQ2脳症マウス)を用いてKCNQ2脳症特異的な遺伝子発現変化を同定すること、2) 分子シミュレーションによって化合物データベースから治療薬候補を探索すること(in silicoスクリーニング)、3) 同定されたKCNQ2脳症特異的な発現変化を指標としながらKCNQ2脳症マウスへの化合物投与実験を行い、有力なKCNQ2脳症治療薬候補を同定することを目的としている。 1)では、生後8、12、16、20、32、64日にあるKCNQ2脳症マウス、および野生型マウスの海馬でmRNA-Seq解析を実施した。その結果、KCNQ2脳症マウスの海馬は、全ての日齢においてKCNQ2遺伝子の発現量が野生型マウスの海馬よりも減少することが確認された。 また、2) のin silicoスクリーニングでは、Molecular Operating Environment (MOE: 株式会社富士通九州システムズ、株式会社MOLSIS提供)ソフトウェア上で作製した3種のカリウムイオンチャネル(Kv7.2/Kv7.3、Kv7.3/Kv7.5、Kv7.4)、およびキシダ化学株式会社データベースに登録されている化合物群とで三次元構造のドッキングシミュレーションを行った。その結果、脳組織で主要に発現しているKv7.2/Kv7.3チャネルへ優先的に結合することが予測される化合物として、5件の化合物を選出した。また、3)を目的とした動物実験では、上記5件の化合物(粉末状固体)を溶解し、定量的にKCNQ2脳症マウスへの腹腔内投与し、KCNQ2脳症マウスの表現形解析することを試みた。しかしながらいずれの化合物も脂溶性が高く、ゴマ油などの脂溶性溶媒への溶解も困難であり、投与不可能であった。
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