研究課題/領域番号 |
19K17352
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
山田 全毅 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 高度感染症診断部, 医長 (30445316)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Epstein-Barr ウイルス / リンパ増殖性疾患 / Transcriptome |
研究実績の概要 |
当該年度の実績として、EBV関連NK細胞性リンパ増殖性疾患(EBV-NK-LPD)の病態解明を目的としたsingle cell RNA seq (scRNAseq)実験技術の確立と、臨床検体を用いた本解析の実施、が挙げられる。当初3年間の計画で申請した本計画は2021年度に競合する研究結果が報告されたこと、新型コロナウイルスの流行による影響で研究活動が制限されたり、当初予定していたeffortが確保できなかったりしたこと、の影響があり全体としての研究状況は当初の予定より 若干の遅れがあったため、研究期間の延長申請を行った。 もともとは特に免疫応答の破綻メカニズムの解明を目的として、モデルマウスを使用した研究計画を開始したが、初年度に、モデルの疾患再現性の問題から免疫応答の評価が困難であったことを報告し、 2020年より、EBV-NK-LPDにおけるリンパ増殖メカニズムの解明を主目的として研究を継続している。2021年度は疾患活動度の異なる患者からえたEBV感染NK 細胞にscRNAseqを行い、EBV感染細胞 における① EBV遺伝子発現パターンの解析と、② 宿主遺伝子の発現パターンに基づくパスウェイ解析を用いて、病態形成およびEBV-NK-LPDの重症化にかかわる因子を探索した。 さらにこれらの情報をもとにパスウェイ解析を行ったところ、特に疾患活動度の高いEBV-LPD患者由来のEBV感染細胞ではSTAT1の活性化による細胞増殖とアポトーシスの低下が予想された。今後の研究ではこれらの所見が一般化できるかについて、より多くの臨床検体で遺伝子発現解析を行い、検証を続ける予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、EBV-NK-LPDの発症メカニズムの解明である。 これまで、ヒトのEBV感染細胞が多様性を有すること、末梢血と組織中の感染細胞の形質が異なることなど、臨床検体から明らかにし、さらにヒト化マウスEBV感染モデルを使用した病態研究を進めてきた。研究を進める中でヒト化マウスモデルにおける免疫応答の詳細な解析は困難であるとの結論に達し、ヒト検体を直接使用いたオミクス解析を応用し、本疾患の病態を解明できるよう方針を変更した。 ここで用いたのは疾患活動性の異なる2人のEBV-NK-LPDドナーから得たPBMCである。シングルセルサンプルの準備は10x Genomicsのプロトコールに従い、細胞をバーコード付き抗体でラベリングした。得られた核酸配列情報は、FASTQファイルから、遺伝子発現解析を行う一連のパイプラインであるCell Rangerおよびこれら情報の視覚化ソフトであるLoupe cell browserを用いた。 それぞれの患者からおよそ10000細胞を解析用に分離し結果を得た。健常コントロールはデータバースから全く同じ手法で得たヒトゲノム+EBVゲノムのリファレンス配列をマッピングして同様の解析を行い、最終的に4つのヒト検体から得たデータを結合して解析した。結果、EBVがコードする遺伝子発現パターンは溶解感染関連遺伝子の発現も見られること、EBV-NK-LPD患者のNK細胞は未成熟でありかつ細胞傷害性が高い、という特徴的な遺伝子発現パターンを示すこと、が明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
まずEBV-NK-LPDにおけるEBV遺伝子の発現パターンは、従来、潜伏感染2型と考えられていたが、本解析により特定の 溶解感染関連遺伝子発現レベルが高いことが示された。 これらの溶解感染関連遺伝子の中には、その役割が定まっていないものもあるため、今後 疾患活動性との関連を評価することでバイオマーカーとしての有効性を評価する予定である。 また 疾患活動性の高い患者においてのみ、顕著に発現が変化していた、遺伝子群の例としてHLA-DRB5、LAIR2、STAT1、KLRC1、GBP1、低い順に、XIST、TKTL1、MYOM2、PTGDS、CD7などが挙げられたが、これらの遺伝子の発現はSTAT1を含むPI3K/Akt/mTOR経路の活性化とそれによる細胞増殖サイクルの亢進を示している。またJAK/STAT経路の活性化により、下流のアポトーシス抑制因子がアップレギュレートし、結果として異常増殖したEBV感染細胞の長期生存に関与する、というメカニズムも併存すると考えられた。 これらの結果に基づき今後、疾患活動度や予後の違いとこれらの遺伝子発現の亢進あるいは減弱が関係するかについて解析を進め、病態形成のかかわる因子を同定したり、予後予測マーカーとしての有効性を検証したりする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
scRNAseq解析の実験手技の習得とその解析方法の取得のために、非常に多くの時間を要した。研究費の制約もあり実際に解析できた臨床検体は少数であるものの病態形成や重症化にかかわる因子として新規性の高い情報を得た。これらの所見が一般化できるかについて更なる検討が必要であるが、遺伝子発現レベルを定量的に測定し、疾患活動と関連付けられれば、病態の一端を解明できると考えている。しかしながらこれらは2021年度中に終了できなかったため研究費の延長申請を行ない本研究を継続できるようにした。
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