研究課題
本研究の目的は、多段階発がんとしての白血病発症に繋がる遺伝子変異の獲得のメカニズムを解明することである。ダウン症候群(1st hit: trisomy21)→TAM(2nd hit: GATA1変異)→AMKL(3rd hit:追加変異)という多段階発がん説に則って説明可能なモデルを用いて、GATA1変異がtrisomy21の造血前駆細胞のどの分画の細胞で、どのような分子機構に基づいて獲得されるのかという点について、iPS細胞由来の造血系を用いて詳細な解析を行っている。研究期間全体を通して、発がんに繋がる遺伝子変異獲得過程を、step1:initiation、step2:promotion、step3:progression、と定義し、TAM/AMKL由来の多能性幹細胞モデルを用いて、順に解析・検討を行う。2019年度はまず、step1(initiation)のDNAダメージにより変異を獲得する過程について検討を行った。disomy21細胞と比較して、trisomy21細胞で分化段階特異的なDNAダメージの増加が見られるかどうかを解析した。アイソジェニックなdisomy21(健常)とtrisomy21の多能性幹細胞ペアを用いて血球分化を行い、未分化、中胚葉(血球血管共通前駆細胞)、初期造血前駆細胞の段階ごとに、DNAダメージ量を比較した。評価の方法としては、DNAダメージ応答関連分子(γ-H2AX)の定量比較、GATA1遺伝子関連領域のメチル化状態の比較を行った。しかしながら、未分化な状態から初期血液前駆細胞における各段階でdisomy21とtrisomy21の細胞にDNAダメージ量に有意な差は見られなかった。また、直接DNAダメージを検出することにも取り組んでいる。想定されるDNAダメージは微量であるため、高感度にDNAミスマッチを検出する系の構築を行っている途中である。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、DNAダメージ量の変化について各分化段階ごとに評価を行い、disomy21とtrisomy21の間でDNAダメージ量に有意な差はない、という結果を得る事が出来た。この結果は、ダウン症候群患者では健常人(disomy21)に比べて、白血病発症リスクが高いにも関わらず、遺伝子変異発生率に差はない、つまり遺伝子変異が発生した後のDNAダメージ修復過程もしくは、遺伝子変異獲得細胞の選択的な増殖過程に差があることを示唆出来たと考えられる。よって、2020年度以降はそれらの過程に着目し、研究を進めていくという明確な指針が出来た。また、高感度にDNAミスマッチを検出する系の構築は完成していないが、次世代シークエンサーを用いた解析も視野に入れながら試行錯誤を行っているところである。
2019年度の結果から、disomy21とtrisomy21におけるDNAダメージ量は、初期血液前駆細胞までの段階では差がない事がわかった。そこで2020年度は、step2(promotion)のDNA ダメージ修復過程に着目して比較検討を行う。具体的には、GATA1遺伝子部位、分化系統及び分化段階毎に DNAダメージを故意に誘導したときの反応をdisomy21とtrisomy21細胞で比較する。この時に起こる DNA ダメージ修復の種類として相同組換え修復(HR)及び非相同組み換え修復 (NHEJ)のどちらが多く誘導されているかについても評価系を構築し、解析を行う予定である。さらに、2019年度に評価した初期血液前駆細胞から、我々が同定したTAMの表現型を誘導していると考えられる血液前駆細胞分画までの間についてより詳細に段階を刻んで評価することも考えている。また、2019年度より引き続いて、直接DNAダメージを検出するために、次世代シークエンサーを用いてより高感度な検出系の構築にも取り組む。
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