研究課題/領域番号 |
19K17373
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
古川 晶子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (60596667)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インヒビター / 血友病A / 遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
今年度は新規にインヒビターが発生した軽症中等症血友病A患者は経験しなかった。 患者インヒビター特性の解析では、P1809L変異を有する症例およびE272K変異を有する症例で、精製した患者IgGは製剤FVIIIのみを認識・抑制し、自己FVIIIを認識・抑制しないという結果が得られた。患者IgGの特性をさらに解析したところ、他の症例ではFVIIIーリン脂質およびFVIIIーvon Willebrand因子それぞれの結合を阻害したのに対し、自己FVIIIを抑制しなかった2例のIgGでは阻害せず、インヒビターの抑制様式が異なる可能性が示唆された。 並行して今年度は、野生型マウスにヒトの第VIII因子(FVIII)を投与し、インヒビター発生の時間的経過を観察した。同時に野生型マウスにLPSを投与し敗血症モデルとすることで、インヒビター力価が未投与のものに比べて上昇すること確認した。この結果は、血友病A患者の重症感染時にインヒビター発生リスクが上昇するとの既報と矛盾しなかった。 またこれまでに経験したインヒビター保有軽症中等症血友病A患者の遺伝子解析で得られたF8遺伝子の点変異(P1809L)について、同様の部位をマウスF8遺伝子に導入し軽症中等症血友病Aモデルマウスを作成することを試みている。作成できれば、上記と同様にLPSを投与して敗血症モデルとし、軽症中等症血友病A症例においてもインヒビター発生に影響するかどうかを検討する予定である。 また昨年度発生した症例(E272K変異)については、製剤由来FVIIIと変異FVIIIとの相違点がFVIII構造上に存在するかどうかについて、タンパク質モデリングソフトを用いた構造解析を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は新規のインヒビター発生症例がなく、現在までで10症例の解析を終了している。一方で、今年度は患者IgGの特性について解析を進めることができた。またLPS投与による敗血症モデルマウスへのFVIII投与実験の結果から、インヒビター発生リスクに影響している可能性が示唆された。マウスへの軽症中等症血友病Aの点変異導入も試みている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新規症例が発生しなかったが、新たに軽症中等症血友病A患者にインヒビターが発生した場合は、これまで同様にインヒビターの性質について解析し、遺伝子解析の情報を用いて変異FVIIIを作成、インヒビターによる抑制効果について解析し製剤由来FVIIIと比較する。差異があれば、構造上の相違点について解析し、インヒビター発生の要因となりうるかどうかを、蛋白リモデリングソフトによる解析をはじめとした解析で検討する。この検討により免疫原性に影響する構造や部位が同定できれば、低免疫原性を目指した新規FVIIIを設計し、BHK細胞を用いて発現させ、その機能を各種凝固機能検査にて評価する。また実際に血友病Aマウスへの投与も行い、治療薬としての有用性を評価する。またインヒビター発生前後の検体が利用可能な症例については、サイトカインなどの患者側の免疫機構に関する因子を測定し、その変動について解析を行い、インヒビター発生に関与する他の因子またはインヒビター発生のマーカーとなり得る因子を探索する。 また対象患者が有する点変異と同じあるいは相当する部位の変異をマウスF8遺伝子へ導入することを試みており、その変異がインヒビター発生リスクとなるかどうかを野生型マウスや当科で保有している重症血友病Aモデルマウスと比較検討する。さらにLPSを用いた敗血症モデルのみならず、今後は当科で解析したインヒビター保有軽症中等症血友病A患者の臨床経過においてインヒビター発生契機となったと考えられている、重症出血や手術時のFVIII製剤投与をモデリングしたマウスを作成し、インヒビター発生に影響を及ぼすかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新規該当症例が発生しなかったため、予定していた解析が実施されず、次年度使用額が生じた。次年度の助成金と合算し、物品費として使用予定である。
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