今年度は軽症中等症血友病A患者に新たにインヒビターが発生した症例がみられなかった。 一方でこれまでに経験したインヒビター保有軽症中等症血友病A患者の中から、製剤由来FVIIIと自己由来FVIIIとで抑制様式の異なるインヒビターを発生した軽症血友病A症例の遺伝子解析で得られたF8遺伝子の点変異(P1809L)を導入したモデルマウスの作成を昨年より実施していた。ヒト・マウス間の配列相同性を考慮し、マウスF8遺伝子におけるP1777L変異をiGONAD法を用いてノックインし、そのFVIII抗原および活性を測定したところ、P1809L変異を有する症例と同様に比活性の低下を示したことから、これを軽症血友病Aモデルマウスとし、FVIII投与に対するインヒビター発生について、野生型マウス、重症血友病Aモデルマウスと比較検討を行った。FVIII製剤であるオクトコグアルファを各マウスに1週間毎に3回投与し、各回の投与前および最終投与から1週間後の計4回の採血を実施し、インヒビター発生とその推移を検討したところ、野生型では43 %、重症血友病Aモデルでは83 %、軽症血友病Aモデルでは100 %に1.0 BU/mL以上のインヒビターが発生した。そこで、インヒビターを発生した軽症血友病Aモデルの血漿中における残存FVIII活性を測定したところ、2個体で残存FVIII活性がインヒビター発生前とほぼ同等に検出された。そのうち1体につき、製剤由来FVIIIあるいはモデルマウス由来FVIIIに対するインヒビターの抑制効果を検討したところ、製剤由来FVIII活性は抑制するのに対し、モデルマウス由来FVIII活性は抑制しなかった。このことから、本マウスに発生したインヒビターは製剤由来FVIIIのみに対する抗体であり、自己由来FVIIIとの違いを認識できている可能性が示唆された。
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