研究課題/領域番号 |
19K17374
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
中村 幸恵 自治医科大学, 医学部, 助教 (20382955)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グルコーストランスポーター1欠損症 / GLUT1 / SLC2A1 / 遺伝子治療 / AAV |
研究実績の概要 |
【背景】グルコーストランスポーター欠損症(GLUT1DS)はSLC2A1遺伝子変異により、脳内GLUT1を介した糖取込障害をきたし、難治性痙攣、知的障害、小脳失調等をひきおこす。従来の診断は、髄液採取による髄液糖の低下で疑い、原因遺伝子SLC2A1の遺伝子解析で確定するが、早期にGLUT1DSと診断し、かつ重症度が予測出来れば、神経細胞や微小血管のダメージをきたす前に治療に進むことが出来る為、微量の血液で可能なフローサイトメトリー法でGLUT1DS患者の赤血球細胞表面のGLUT1発現を評価し、重症度を分類するカットオフ値を決定することを目標に研究を進める。 【方法】研究に同意が得られたGLUT1DS患者について、全血採取から24時間以内に赤血球分画を分離しそのうち1μl使用しフローサイトメトリー法を行う。フローサイトメトリー用GLUT1抗体として、GFPタグ付Glut1.RBD (GLUT1-G100; METAFORA;アミノ酸425-432)を用いる。BD LSRFortessa X-20 フローサイトメーターでCD235+GLUT1+細胞を分離しヒストグラムでピーク値を比較する。新規GLUT1DS疑い患者については、患者リンパ芽球を用いてSLC2A1遺伝子変異解析を行い、新規の遺伝子変異が検出された際には酵素サイクリング法による2DG取込試験とフローサイトメトリー法を同時に行い結果比較を行う。 【結果】2019年度は9名のGLUT1DS患者について測定を行った。いずれも既知のSLC2A1遺伝子変異が判明しており、臨床的な重症度は軽症6名、古典型(重症型)3名であった。ヒストグラムのピーク値は、重症型3名がグラフが左にシフトする傾向があった。2019年度については新規GLUT1DS疑い患者はいなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フローサイトメトリー法による、赤血球表面のGLUT1発現測定について、健常者血液を用いて抗体反応の条件設定が終了した。GLUT1DSは希少難病ではあるが、2015年に日本人GLUT1DS患者57名の遺伝子型および表現型の報告を行った、東京女子医科大学小児科 准教授伊藤 康 先生(Ito Y et al. Brain Dev 2015; 37: 780-789) にご協力いただき、9名のGLUT1DS患者の測定を行うことが出来た。しかしながら、検体数が少なく、重症度別のカットオフ値を判断するのは困難であるため、2019年度はGLUT1DS患者交流会で研究の概要について説明し、本研究について理解を深め、患者検体数を増やすよう努めた。2020年度以降も引き続き検体数を増やし測定を継続する。
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今後の研究の推進方策 |
①フローサイトメトリー法によるGLUT1DS患者の赤血球細胞表面のGLUT1発現の評価:重症度を分類するカットオフ値を決定することを目標に検体数を増やし引き続き研究を進める。②大型実験動物に対する、GLUT1DS治療用AAVベクター投与後の外因性GLUT1発現評価:申請者は、GLUT1DSに対するAAVを用いた遺伝子治療をテーマに研究を継続しており、GLUT1DSモデルマウスについては治療効果を確認した(Nakamura S et al. J Gene Med 2018; 20: e3013)。本研究は、GLUT1DSの重症度に応じて、軽症患者には食事療法(ケトン食療法)、重症患者については優先的にAAV遺伝子治療に進むなど、治療の層別化を図る目的で、新生児期にも侵襲性が低く早期に検査可能なスクリーニング法の候補としてのフローサイトメトリー法の確立を目的としていた。2020年度は、①の研究と同時に、AAVを用いたGLUT1DS遺伝子治療の前臨床試験として、大型実験動物を用いたAAVベクター治療後の外因性GLUT1発現評価についても並行して行う。治療用ベクターとしては、既にモデルマウスで治療効果を確認している、ヒト内在性GLUT1プロモーター組込治療用AAVベクター(AAV-GLUT1)を用い、実験動物は、自治医科大学先進医療技術センターの実験用ヘアレスブタを用いる。投与経路としては、髄腔内投与としての大槽投与を予定する。投与月齢は、GLUT1DSは乳児から学童期に診断されることが多いため、若年ブタを用いる。AAV-GLUT1投与4週後のvector genome定量および外因性GLUT1 mRNA、蛋白発現について、脳、脊髄および他主要臓器について評価を予定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を施行するにあたり、フローサイトメトリー用抗体等の購入等を進めたが、対象とするGLUT1DSが希少難病であり、当初の予定より採取出来た検体数が少なかったため、次年度使用額として66648円が生じた。次年度は、測定検体数を増やす予定であり、フローサイトメトリー用抗体の追加購入などに充てる。
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