現在わが国では、中等度以上の低酸素性虚血性脳症の新生児に対して死亡率及び神経学的予後を改善するというエビデンスのもと、新生児低体温療法が普及した。低体温療法のプロトコールが標準化される一方で、経腸栄養管理について統一された指針はなく、経腸栄養開始の遅れなどの臨床経過が生体代謝や腸内細菌叢へ及ぼす影響が懸念される。多価不飽和脂肪酸は新生児の成長や発達にとって重要な脂質栄養素である。一方で、多価不飽和脂肪酸の酸化により産生された代謝産物は、早産児における壊死性腸炎、脳室内出血、慢性肺疾患や未熟児網膜症などの合併症と関係していると報告されている。新生児仮死や低酸素性虚血性脳症と脂肪酸代謝産物との関係についての報告はない。以前我々は、動物モデルを用いた検討により、新生児仮死は脳内の多価不飽和脂肪酸組成に影響を及ぼすことや、摂取する多価不飽和脂肪酸の違いにより低酸素性虚血性脳症の神経細胞障害を軽減できることを報告した。多価不飽和脂肪酸から産生される代謝産物が新生児仮死の病勢に影響を与える可能性を考えた。研究期間中低体温療法施行児症例が集まらなかったことから、対象及び方法において、研究計画の変更を行った。 順天堂大学医学部倫理委員会許可のもと、2021年12月-2022年7月に在胎37週0日以降、出生体重2500g以上で出生した、新生児仮死児15例、健常児15例を対象とした。先天奇形、代謝性疾患、small for gestational児は除外した。新生児仮死の定義は次の基準を2つ以上満たすこととした。①胎児仮死徴候、②臍帯動脈血pH<7.10、③Apgarスコア5分値≦5点、④生後10分以上の持続的な新生児蘇生を要する。新生児仮死群、健常児群の2群間で、臍帯血中脂肪酸代謝産物の比較検討を行った。新生児仮死群においては、日齢1、4、7に血中脂肪酸代謝産物測定を行い、臨床データと短期予後を含めて経時的な検討を行う。
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