研究課題
アレルギーにおける重要な分子の候補として、これまでの研究結果をもとに、各アレルギー疾患で評価を行った。特に末梢血好塩基球における分子発現をFCMで解析した。対象疾患は、免疫療法を施行中のアレルギー性鼻炎や食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES; Food protein induced enterocolitis syndrome)を対象とし、抗原刺激を加え好塩基球の活性化を解析した。本年度は、近年急激に増加傾向にある、卵黄によるFPIESを対象に調査と解析を行ない、6か月ごと経口食物負荷試験(OFC; oral food challenge)での耐性獲得を臨床症状や、IL1RL1/ST2などの細胞特異的発現で評価した。末梢血の検討では、卵黄抗原刺激により、CD203c陽性好塩基球は、抗原濃度依存的に活性化を示し、IL-4産生細胞や、即時反応より遅い時相で起こる、IgE依存性の慢性アレルギー炎症(IgE-CAI; IgE-mediated chronic allergic inflamation)の関連を中心に解析を進めた。CD203cは好塩基球に発現し、細胞外ATPを加水分解することで活性化を制御し、IgE-CAIに重要な役割を果たすため、アレルギーによって誘発される消化器症状に好塩基球による慢性アレルギー炎症の関与が強く考えられた。また、FPIESで腸管上皮においてTGF-βが低下し、IL-8, IL-10, TNF-α産生が亢進する現象も確認した。自然免疫による抗原提示から好中球の誘導や、Tリンパ球への獲得免疫へのシフトが考えられ、特に消化管機能が未熟かつ消化管の透過性が亢進しやすい乳幼児にとって、自然免疫系は働きやすい環境にあり、現段階で好塩基球とサイトカインを主体としたクロストークが、最終的にTh2細胞を惹起し、局所の症状を誘発する機序と結論づけた。
2: おおむね順調に進展している
当初の実験計画通りに進行し、概ね順調に進行した。本年度は、とくに近年急激に増加傾向にある、卵黄によるFPIESを対象に調査と解析を行なったが、本疾患は小児領域において急増しており、当院でも症例が多く存在するため優先して解析を行なった。研究機器の修理により実験進行一時頓挫したが、外注検査や他施設で解析したデータをもとに実験を進行させた。
末梢血細胞を用いた実験を継続し、とくに患者検体を持ちたFCMでの好塩基球機能や表面発現分子の解析を継続する。また進行中の前向き研究でのアレルギー発症に関連づけた皮膚経皮水分蒸散量の検討も開始しており、疾患の重症化やアレルギー発症との関連を検討する。昨年度は投稿が遅れていた論文も受理され、今年度はまた新たに論文作成に取り掛かりたい。
そのほかの競争的資金の取得や、研究室の共益費が潤沢に使用できたことなどから、使用予定額との差が生じた。学会もweb開催が主体であったため、国内及び海外への出張費などが発生しなかった。一方で、論文投稿費や校正料は計画よりも多く、今年度の予算で調整する予定である。
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小児科
巻: 61 ページ: 193-200
アレルギーの臨床
巻: 40 ページ: 321-26
巻: 40 ページ: 1183-1189