我々は、心筋症を発症したDNM1L変異小児患者2例よりiPS細を樹立し、DNM1Lがなぜ心筋機能不全を引き起こすかの機序を解明することを目的として本研究を実施した。本研究では、iPS細胞由来の分化心筋細胞を用いて、ミトコンドリア形態評価、機能評価、心筋細胞機能評価(収縮能・拡張能評価ならびに細胞内カルシウム動態評価)を行った。その結果DNM1L変異分化心筋細胞では、伸長した異常ミトコンドリア形態を呈することを確認した。さらに、ミトコンドリア膜電位の低下、OCR (Oxygen Consumption Rate )の低下、ATP産生低下を確認した。心筋細胞機能評価においては、ライブセルイメージングシステムにて、収縮能・拡張能の低下を確認した。さらにCa2+蛍光プローブであるFluo-4 を用いてCa2+動態を可視化し、解析を行なった。その結果、筋小胞体へのCa2+再取り込みを行うSERCA2A の機能指標である T50 (time from peak to 50% relaxation)の延長を確認した。SERCA2AはATP依存性チャネルであり、ATP産生低下によりCa2+動態異常が起きることが推測された。さらにコントロールiPS細胞由来の分化心筋細胞にミトコンドリア機能阻害剤を加えると、同様のT50延長が起こることを示し、ミトコンドリア機能低下によるATP産生低下がSERCA2Aの機能障害をもたらすことが示唆された。以上より、DNM1-L変異心筋細胞では、伸長・老朽化した異常ミトコンドリアが蓄積し、ミトコンドリア膜電位の低下、酸素消費速度の低下、ATP産生低下が起きること、そしてATP産生低下がATP依存性チャネルであるSERCA2Aの機能障害をもたらし、心筋細胞の収縮能・拡張能の低下につながることが示唆された。
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