研究課題/領域番号 |
19K17386
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部) |
研究代表者 |
長谷部 洋平 独立行政法人国立病院機構村山医療センター(臨床研究部), 電気生理学研究室, 共同研究員 (90622374)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 視床下部 / 膜電位イメージング / 先天性中枢性呼吸調節障害 / 循環調節 / グリア細胞 / アストロサイト |
研究実績の概要 |
小児領域における原因不明の呼吸循環調節障害には、先天性中枢性肺胞低換気症候群(congenital central hypoventilation syndrome (CCHS))やROHHAD症候群など、視床下部の機能不全が原因とされる疾患が存在する。しかし、視床下部が呼吸循環調節機構において果たす役割は完全にわかっておらず、視床下部の障害が呼吸や循環の調節障害を起こす機序は解明されていない。これらの疾患に対して根本的な治療法は確立されておらず、侵襲的な対症療法に頼らざるを得ない状況である。研究代表者は新生ラットから作製した間脳-脳幹-脊髄の摘出標本を用いた予備実験で、視床下部が呼吸促進性の役割を担っている結果を得、呼吸調節機構において視床下部が重要な役割を果たしているとの仮説を立てた。本研究は、視床下部の機能不全を呈する小児疾患が呼吸循環障害を起こす機序を解明することを究極の目的とし、その基礎的検討として、呼吸促進性に働く視床下部の領域、細胞の特定を目指している。2019年度から2021年度にかけて、新生ラットの摘出間脳-脳幹-脊髄標本を用いた膜電位イメージング実験で、視床下部に呼吸神経出力と同期して活動する領域の存在を同定した。さらに、室傍核PVNや背内側核DMHといった視床下部における重要な呼吸循環中枢領域から、延髄における重要な呼吸循環調節領域である吻側延髄腹外側野RVLMに向かって神経投射がなされていることを、組織解剖学的な解析によって確認した。また、低換気状態を感知するセンサーであるアストロサイト特異的TRPA1受容体ノックアウトモデルマウスを用いて、低酸素換気応答、特に低酸素後の呼吸増強にアストロサイト特異的TRPA1は関与していないことを明らかとし、アストロサイトは他の作用機序によって低酸素後の呼吸増強を惹起していることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、低酸素後の呼吸増強にアストロサイトが関連していること、TRPA1チャネルを介した低酸素換気応答ではなく、別の機序が存在することを示し、呼吸調節に関連する細胞およびメカニズムを示すことができた。一方でコロナパンデミックによる移動制限によって充分な実験時間を確保することができず、今年度の当初の目標であった視床下部における呼吸循環調節に関与する部位の特定、伝達経路を明らかにすることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前年度同様、視床下部のうち呼吸促進性に働く部位の正確な同定や、視床下部に付加した障害が呼吸調節機構に及ぼす影響について解析を進めていく予定である。さらに心拍数や血圧といった生体の循環動態に及ぼす影響についても確認していく予定である。呼吸促進性に働く視床下部の部位の同定は、視床下部の呼吸関連領域に金属電極を刺入し,電気刺激を与えることによって同領域を興奮させた際の呼吸出力への影響を解析する方法で進めていく。また、視床下部への障害が呼吸調節機構に及ぼす影響については、金属電極を用いた電気焼灼により、視床下部の呼吸関連領域機能を障害し,その部位の障害が呼吸出力に与える影響を解析することで進めていく予定である。循環動態についても同様の方法で解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由: コロナパンデミックによる移動制限に伴い、物品費、旅費、その他の各支出額が当初の予算額よりも抑えられたため、次年度使用額が生じた。また、研究代表者の工夫によって支出が抑えられた。次年度は完遂されていない多くの実験を行うこと、実験に関連した研究論文もしくは総説執筆によって研究資金を有効に活用する予定である。
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