小児における原因不明の呼吸循環調節障害には、中枢性肺胞低換気症候群(CCHS))やROHHAD症候群など、視床下部の機能不全が原因とされる疾患が存在するが、視床下部の障害が呼吸循環障害を起こす機序は解明されていない。研究代表者は新生ラットの摘出標本を用いた予備実験で、視床下部が呼吸促進性の役割を担っていることを示す結果を得、呼吸調節機構において視床下部が重要な役割を果たしているとの仮説を立てた。本研究は、視床下部の機能不全を呈する小児疾患が呼吸循環障害を起こす機序を解明することを目的とし、その基礎的検討として、呼吸促進性に働く視床下部の領域、細胞の特定を目指した。2019年度から新生ラットの摘出間脳-脳幹-脊髄標本を用いた膜電位イメージング実験で、視床下部に呼吸神経出力と同期して活動する領域の存在を同定した。さらに、室傍核や背内側核といった重要な呼吸循環中枢領域から、延髄における重要な呼吸循環調節領域である吻側延髄腹外側野に向かって神経投射がなされていることを、組織解剖学的な解析によって確認した。また、低換気状態を感知するセンサーであるアストロサイト特異的TRPA1受容体ノックアウトモデルマウスを用い、低酸素後の呼吸増強にアストロサイト特異的TRPA1受容体は関与していない事を示し、アストロサイトは他の機序によって低酸素後の呼吸増強を惹起していることを示した。その後、COVID-19蔓延による移動制限によって十分な実験を行うことができず、2022年度も視床下部における呼吸循環調節に関与する部位、伝達経路の同定に至らなかった。一方、2022年度は国際会議Oxford Conference 2020において、Clinical course of CCHS in infantの演題名で筆頭演者として発表、これまでの経験を踏まえて小児呼吸中枢に関する総説論文の執筆を検討している。
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