本研究の目的は、空置腸炎における自家糞便移植(FMT)の有用性の検討と、空置腸管の免疫グロブリンA(IgA)・短鎖脂肪酸濃度の測定および腸内細菌叢の評価を行い、空置腸炎の発症のメカニズムを調査することである。 研究実績①:第 105 回日本消化器病学会総会(2019)において、「空置腸炎に対する自家糞便移植の有用性と腸内細菌叢に与える影響の検討」と題してワークショップセッションで学会発表を行った。対象は、当院で人工肛門造設に伴う空置腸炎と診断された6症例、FMT前後で内視鏡検査および糞便採取を行い、次世代シーケンサーMiSeqを用いた16SrRNAメタゲノム解析により腸内細菌叢の解析を行うと共に、糞便中のIgA、脂肪酸の濃度測定を行った。FMTによって全症例で内視鏡上の腸炎の悪化は抑制された。また、FMTによる空置腸管内の腸内細菌叢の変化(Proteobacteria門の減少とFirmicutes門の増加)が観察された。本発表では、空置腸炎における自家糞便移植の有用性と腸内細菌叢の変化を提示し、今後の腸内細菌叢をターゲットする新しい治療法・予防法への応用の可能性を示した。 研究実績②:米国消化器病学会(2019)において、「Consideration of serum IgA in patients with Inflammatory Bowel Disease」と題してポスター発表を行った。免疫グロブリンA(IgA)は腸管粘膜から分泌され、感染防御と腸内細菌叢制御、腸管免疫において重要な役割をはたす抗体である。今回、炎症性腸疾患患者において、病勢や病型、腸管切除歴等が血清IgA値に影響している可能性を示した。今後、腸管免疫制御に重要な役割を担うIgAをターゲットとした炎症性腸疾患に対する新たな内科的治療も期待される。
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