研究課題/領域番号 |
19K17398
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
本澤 有介 京都大学, 医学研究科, 特定病院助教 (90737884)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / クローン病 / 腸管線維化 / Heat shock protein 47 |
研究実績の概要 |
クローン病の腸管狭窄は腸管粘膜における線維化が主体となって生じ、その病態にはコラーゲンの産生亢進が関与しているとされている。我々はそのコラーゲン産生に必須の分子であるheat shock protein(HSP)47が炎症性サイトカインであるIL-17Aを介して腸管でのコラーゲン産生が亢進し、腸管狭窄をきたすことを報告してきた。しかしながら、クローン病における炎症には様々な因子が関与し、HSP47を介した腸管線維化の詳細な機序解明については十分ではなく、線維化治療におけるHSP47制御の検討も今後の課題である。本年度はHSP47に関与するサイトカインおよびその患者背景について検討を行った。 ヒト筋線維芽細胞株(CCD-18Co)を用いた検討ではIL-1β刺激によりHSP47およびコラーゲンの発現上昇を認め、さらにTNF-α、IL-17A、TGF-β1による共刺激で発現が増強された。特にコラーゲンの遺伝子(COL1A1)発現はIL-1βとIL-17Aの刺激で顕著であった。また、クローン病腸管狭窄症例の検討では家族性地中海熱の疾患感受性遺伝子であるMediterranean fever (MEFV)遺伝子の中でもE148QにSNPを有する患者背景群では優位にクローン病腸管狭窄症例が多かった。また、患者より単離したPeripheral Blood Mononuclear Cells (PBMC)においてはMEFV遺伝子に特定のSNP(E148Q)を有する患者検体では炎症増悪に関与するInflammasomeと呼ばれる蛋白複合体の活性亢進およびIL-1βの発現亢進を確認した。これら結果からクローン病腸管狭窄症例ではIL-1β発現が亢進し、HSP47を介した腸管線維化の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒト腸管組織より単離した腸管筋線維芽細胞の初代培養系(human intestinal subepithelial myofibroblasts: ISEMFs)による検討が手術症例に依存するため十分な検体が集められなかったが、ヒト筋線維芽細胞株(CCD-18Co)では予定していたサイトカインおよびその共刺激での検討が可能であった(IL-1β、TNF-α、IL-17A、TGF-β1)。また、本年度に予定していたCCD-18CoにGFPを組み込んだレポーターアッセイの実験系では培養条件が通常のCCD-18Coと異なり安定せず、条件設定に時間を要したもののクローン病の患者背景の検討にてIL-1β発現に関与するとされるMediterranean fever (MEFV)遺伝子の特定SNP(E148Q)を有する患者群で狭窄症例が多く、実際に同SNPを有する患者より単離したPeripheral Blood Mononuclear Cells (PBMC)にてIL-1β発現亢進をその経路(Caspase-1の亢進)含め確認することができた。このことから、目標であったHSP47の発現に関与するサイトカイン環境はある程度確認できたと考え、今後は不十分であった細胞株の条件設定および手術症例(ISEMFs作成のための検体)の集積に基づく解析を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト血清、ヒト筋線維芽細胞株(CCD-18Co)、Peripheral Blood Mononuclear Cells (PBMC)の検討にてIL-1βがクローン病において発現が亢進し、特に腸管狭窄型クローン病ではInflammasomeを背景とした同サイトカインの関与がHSP47・コラーゲンの発現亢進を来していることが考えられた。今後は実際の患者におけるPBMCを用いたサイトカイン環境の検討のみならず、腸管組織におけるメカニズム解析を検討している。具体的には患者腸管組織より単離したhuman intestinal subepithelial myofibroblasts(ISEMFs)を用いて既に行っている細胞株と同様のサイトカイン刺激実験を行う。また、既に作成しているHSP47shRNAを用いてHSP47のノックダウンによりISEMFsにおけるコラーゲンの抑制が可能であるかの検討も予定している。課題としては炎症部位のISEMFsは増殖状態などの培養条件の差が大きく、複数の検体での検討が必要であり、培養条件の設定には時間を要すると思われる。この為、予定しているHSP47shRNAによる検討では細胞株による実験も同時に行うことを予定している。また、抑制実験に加えて各種サイトカインの阻害実験を行うことも検討しておりHSP47制御を介した腸管線維化治療の可能性を検討する。また、IBDモデルマウスであるIL-10ノックアウト(KO)マウスにおいてもマウスの腸炎状態の検討、病理評価を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)本年度はヒト血清、細胞株を中心とした研究内容となった。理由としてはヒト腸管組織より単離した腸管筋線維芽細胞のhuman intestinal subepithelial myofibroblasts(ISEMFs)のための検体の収集が難しかったことが挙げられた。また、マウスの検討についても上記結果を踏まえた実験予定であったことから現在はマウスの腸炎の発症の程度の評価が中心となっており、実験マウス解析に要する経費が一部軽減され、次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度の研究遂行に必要とされる経費は1)ヒト細胞株、ISEMFsの作成・解析のための各種抗体および試薬、2)実験マウスの飼育・管理、3)情報収集および成果発表のための旅費である。1) 各種抗体および試薬:サイトカインの刺激実験、インフラマゾームの解析や遺伝子解析に必要な試薬・抗体の購入が必要である。2) 実験マウスの飼育・管理:腸炎状態の解析が必要となり、またマウス腸管線維化の治療実験など多めの実験マウスの維持管理が必要となる。3) 情報収集および成果発表のための旅費:本研究に関する情報収集および成果発表のための旅費が必要になる。
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