研究課題
本研究の目的は、メトホルミン投与でのCellular Communication Network factor 2(CCN2)制御により抗線維化効果が得られるか、長鎖非コードRNA(UCA1)がCCN2を介し線維化に関与するか、またそのメカニズムについてin vitro及びin vivoの実験系で明らかにすることである。2020年度は培養細胞でのin vitroの実験系を中心に解析し、以下の結果を得た。1.ヒト線維肉腫由来HT-1080細胞にメトホルミン5mMを添加すると、非添加群に比べUCA1,COL1A1,COL1A2,α-SMAの遺伝子発現が低下し、CCN2の発現は抑制された。一方、miRNA-18aの発現レベルは上昇した。2.HT-1080細胞にメトホルミン添加後48時間でUCA1の発現は最も減少し、miR-18aの発現は最も増加した。その後CCN2,COL1A1,COL1A2,α-SMAの発現は72時間後に減少した。3.特発性肺線維症(IPF)患者の肺線維芽細胞にメトホルミン5mMを添加すると、非添加群に比べ24時間後にUCA1の発現が増加したが、その後経時的に発現は低下し72時間後には非添加群と同程度まで低下した。CCN2,COL1A1は24,48時間後では発現が上昇するものの、72時間後には非添加群よりも低下した。一方、miRNA-18aの発現は増加した。以上から、HT-1080細胞ではほぼ当初の仮説通りの結果が得られ、メトホルミンの抗線維化効果とCCN2を介したUCA1の線維化への関与が示された。IPF細胞ではメトホルミン添加によるUCA1,CCN2,COL1A1の一時的な発現増加を認めたが、その後経時的に発現は低下する傾向にあり、72時間後以降でより有意に低下するであろうことが示唆された。またUCA1ノックインマウスの解析・系統確立も並行して進行中である。
2: おおむね順調に進展している
2020年度は、メトホルミン添加によりUCA1の発現が抑制されることでmiR-18a発現が増加し、それによりCCN2発現が抑制されて抗線維化効果が得られるという仮説を検証することに主眼を置いてきた。メトホルミン添加により、HT-1080細胞においてこの仮説に沿った変化が確認できたことは2020年度の大きな成果であった。一方で、IPF患者の肺線維芽細胞での検証では、メトホルミン添加後72時間後以降のさらに長期間の観察の必要性が判明し、2021年度の研究を進める上で重要な足掛かりを得ることができた。また、UCA1ノックイン マウスの解析および系統確立に向けての研究も順調に進行しており、in vivoでの実験系を行う段階にある。新型コロナウイルスの影響により研究計画の変更や中断を余儀無くされたため、当初の計画より1年延長することとなったとはいえ、上記の通り、着実に成果は上がっており、研究計画当該年度の研究進捗状況は概ね順調であると判断した。
2021年度は、IPF患者の肺線維芽細胞においてもメトホルミン添加により、HT-1080細胞で得られた結果と同様の変化が生じるか、より長期間の観察を行い検証する。また正常ヒト線維芽細胞でも同様に検証を行う。併せてUCA1ノックイン マウスを用いた線維化疾患モデルでの実験系へ進み、メトホルミン投与の効果を組織学的・分子生化学的に解析する。当該年度は本研究課題の最終年度であるため、これまでの研究成果をまとめ、論文作成を行う。
当初予定として2019年度後半からUCA1ノックイン マウスを用いたin vivo解析を始める予定であったが、動物実験施設の統廃合と施設移転により、新施設へ移転後にUCA1ノックイン マウスを再作製することとなり、加えて新型コロナウイルスの影響による研究中断等もあったため、2020年度はin vitroでの実験系を中心に進めるよう計画を変更した。並行してUCA1ノックイン マウスの解析も継続したが、in vivo実験を遂行するだけの匹数の確保までは進展できなかった。このため、in vivoでの実験系に使用予定であった金額が余剰となった。2021年度は早急にUCA1ノックイン マウスの繁殖を行い、実験条件にあったマウスを確保して線維化疾患モデルを作製し、メトホルミン投与による影響の解析を行う。今年度の余剰金を最大限活用し、in vivoでの実験計画を中心に遂行するとともに、本研究課題を通して得られた研究成果を論文にまとめて発表する予定である。
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International Journal of Molecular Sciences
巻: 21 ページ: 7556~7556
10.3390/ijms21207556