研究課題
本研究では、(1)ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)などのエピゲノム修飾酵素阻害薬(エピゲノム薬)、(2)肝発癌に関連する環境誘導因子を同定・準備し、肝癌細胞の合成致死性あるいは治療抵抗性が生じる(1)(2)の組み合わせを網羅的に探索し、細胞環境に応答する転写因子・核内受容体を介した新しい肝発癌・進展機構の同定ならびに臨床応用を目指している。上記(2)に関連した研究として、c-Raf,b-Raf のセリン・スレオニンキナーゼ活性と c-Kit,VEGFRなどのチロシンキナーゼ活性を阻害するマルチキナーゼ阻害薬であるソラフェニブ(SFN)を用いて肝癌細胞株HepG2細胞を長期培養することで、SFN耐性肝癌細胞株を樹立した。昨年度の研究にて、SFN耐性肝癌細胞の細胞内シグナル経路の変化を調べた結果、(i)ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ/プロテインキナーゼB経路の代償性活性化(ii)SFN再投与に反応して脂質代謝に関わる転写因子の発現上昇とその下流の標的遺伝子の発現変動(iii)親株より増殖抑制効果を示す4種類のエピゲノム薬の候補を同定した。内訳としては、エピゲノム修飾阻害薬に関しては3種類のHDAC阻害薬と、1種類のSIRT阻害薬、ならびに1種類のシグナル標的阻害薬(生存シグナル阻害薬)であった。今回、同定した脂質代謝関連転写因子をノックダウンし、網羅的薬剤スクリーニングを行うことで、肝癌細胞株の合成致死性を誘導するエピゲノム薬の候補(SIRT阻害薬)を同定した。今後は、脂質代謝関連転写因子と、ヒストン脱アセチル化あるいはその他細胞内タンパク質の脱アセチル化との関連を分子生物学的手法により詰めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
SFN耐性肝癌細胞株において治療抵抗性の克服につながることが期待される4種類の候補薬剤をすでに同定した。またSFN耐性化において発現上昇する転写因子のノックダウンと合成致死性を誘導するエピゲノム薬の候補を同定した。
引き続き、同定した薬剤と転写因子とのゲノム上あるいは細胞内タンパク質における翻訳後修飾上の相互作用を詰める予定である。また、転写因子を活性化、あるいは核内受容体リガンドとなり得る環境誘導因子の化合物ライブラリー、ならびにヒストン修飾酵素阻害薬のライブラリーを用いて、薬剤スクリーニングを継続し、転写因子とエピゲノム薬の相互作用を調べる。同定された候補エピゲノム薬が阻害する脱アセチル化酵素と、同定した転写因子が発現活性化する標的遺伝子の制御部位(エンハンサー/プロモーター領域)上で、それぞれが相互作用し得るかを、Webデータベース上のChIPシークエンスデータとDNA結合モチーフを照合することで、さらに候補を絞り込む。さらに同定された転写因子/核内受容体に対する特異抗体を用いてChIP -qPCRを行い、遺伝子制御部位への転写因子/核内受容体の直接的な結合を確認する。加えて、肝癌細胞において、候補エピゲノム薬が、その下流の標的遺伝子の発現を変化させ、細胞増殖能や転移・浸潤能に対する抗腫瘍効果を発揮し得るかを明らかにすることを試みる。加えて、動物モデル、臨床検体を用いることで、本研究での成果が臨床に還元可能なレベルとなることを目指す。
1. 転写因子の探索実験、細胞の培養実験、細胞増殖アッセイにおいては実験の効率化などにより当初計画していたよりも物品費を安く抑えることができたため未使用額が発生したが、引き続き、次年度以降も物品購入に使用する。2.Covid-19の全国的な流行により、学会などがオンラインとなり、旅費の使用が皆無となった。最近ハイブリッド型の学会が増えており、成果発表のための旅費を次年度に使用する。
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