本邦では2013年にHelicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎に対する除菌治療が保険収載され、H. pylori感染率は年次的に低下傾向を示しているが、現在においてもH. pylori未感染胃癌が全胃癌の約1%に存在し、かつ、その報告は近年増加傾向にある。H. pylori未感染胃癌の発癌に関連するゲノム・エピゲノム異常は未知の点が多く、発癌・進展機構の分子生物学的解析が急務である。そこで本研究ではH. pylori未感染胃癌患者の生命予後の改善のため、治療成績の向上の要となる発癌原因因子を特定する事を目的として、次世代シーケンサーを用いたゲノム異常・エピゲノム異常の網羅的解析を行い、新規胃癌発生経路の発見を目指すとともに、生物学的解明に基づいた新規治療標的、バイオマーカー発見による臨床応用への道を切り開くことを目的としている。我々は2019年度の研究課程においてH. pylori未感染胃癌65例の症例蓄積および腫瘍組織DNAの抽出を終えた。2020年度にはIon AmpliSeq Comprehensive Cancer Panelを用いて409遺伝子に対する網羅的遺伝子解析を開始した。得られたデータより、TCGAで報告のある4つの分子サブタイプとは異なる新規分子サブタイプを示す可能性を示唆するデータを得ることができ、現在データ解析を進めている。また、今後は、エピゲノム解析としてNGSを用いたバイサルファイトシーケンス解析によりメチル化DNA解析を行う予定である。上記で得られたデータをパスウェイ解析施行する事により、H.pylori未感染胃癌発癌・進展過程に関わるゲノム異常・エピゲノム異常候補の同定を行う予定である。
|