研究課題/領域番号 |
19K17415
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
山口 隆志 関西医科大学, 医学部, 講師 (10730202)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | NASH / Smad3 / TGF-beta / hepatocellular carcinoma / phospho-isoform |
研究実績の概要 |
肝線維化と発癌に関わるTGF-betaシグナルはリン酸化Smadを介して伝達される。報告者らは部位特異的Smadリン酸化抗体(pSmad3C抗体,pSmad3L抗体)を用いた検討を通して、Smad3のリンカー部がリン酸化されたpSmad3Lは癌化シグナルとして、C末端がリン酸化されたpSmad3Cは癌抑制シグナルとして働くことを報告した(Cancers. 2018 5;10(6):183)。慢性肝疾患において肝線維化は重要な発癌の危険因子であるが、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)ではウイルス性肝疾患と異なり、非硬変肝で発癌がみられる一方、発癌を伴わない肝硬変症例も多くみられるため、線維化とは独立した発癌のバイオマーカーが求められる。そこで、長期経過観察が可能であったNASH30症例についてpSmad3C抗体、pSmad3L抗体を用いて免疫組織染色を行い肝細胞におけるSmadのリン酸化状態と発癌や線維化との関連を検討した。NASHの軽度線維化(stage1,2)14例中2例は発癌しており、発癌した2例はともにpSmad3Lは増加しpSmad3Cは低下していた。高度線維化(stage3,4)16例中5例は10年以上の経過観察で発癌を認めず、それら5例はpSmad3Lの増加がなくpSmad3Cは低下していなかった。pSmad3Lが豊富な12例中11例で発癌を認めたが、pSmad3Lの乏しい18例のうち発癌を認めたのは2例のみであった(log-rank 0.0009)。対照的にpSmad3Cが乏しい15例中12例で発癌したが、pSmad3Cが豊富な15例のうち1例でのみ発癌した(log-rank 0.0022)。NASH肝細胞におけるpSmad3Lの増加とpSmad3Cの低下は、線維化とは独立した発癌の重要な危険因子であり発癌リスクを評価するための重要なバイオマーカーとなりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NASH患者の臨床検体を用いた検討により、NASH肝細胞において癌化シグナルであるpSmad3Lと癌抑制シグナルであるpSmad3Cは線維化とは独立した発癌のバイオマーカーとなりうることを確認した。令和2年度は、その成果を国内の学会で報告した。また、同様の検討を非ウイルス性肝疾患である原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者でも行った。 6週齢で脂肪肝、8週齢で脂肪性肝炎を呈し、12週齢で線維化が出現し、20週で100%肝癌を発症するNASH発癌モデルマウス(STAMマウス)の肝組織を、部位特異的リン酸化Smad抗体で免疫染色を行った。6週齢の脂肪肝に至るまではSmad3Lリン酸化は認めず、8週齢の脂肪性肝炎発症時にpSmad3Lの増強が見られた。線維化進展においてもSmad3Lリン酸化は持続し、20週齢の発癌マウスの癌部では最も増強した。また、Smad3Cリン酸化は脂肪性肝炎発症から発癌に至るまで高い状態が持続した。これらの結果は、臨床検体を用いたこれまでの実験結果を裏付けるものであった。 当研究室で開発した部位特異的リン酸化Smad抗体を用いたサンドイッチELISA法を用いた定量的な解析は令和3年度に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は令和2年度に行ったPBC患者の検討結果を論文発表し、国内の学会で報告する。また、STAMマウスを用いた検討を継続する。当研究室で開発した部位特異的リン酸化Smad抗体を用いたサンドイッチELISA法を用いて定量的な解析を行い、免疫染色で得られた半定量的な結果との整合性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
NASH発癌モデルマウス(STAMマウス)を用いた検討のうち、ELISA法を用いた検討は、令和3年度に行うこととなったため、繰り越しが生じた。
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