研究実績の概要 |
肝線維化と発癌に関わるTGF-betaシグナルはリン酸化Smadを介して伝達される。報告者らは部位特異的Smadリン酸化抗体(pSmad3C抗体,pSmad3L抗体)を用いて、Smad3のリンカー部がリン酸化されたpSmad3Lは癌化シグナルとして、C末端がリン酸化されたpSmad3Cは癌抑制シグナルとして働くことを報告した。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)ではウイルス性肝疾患と異なり、非硬変肝で発癌がみられる一方、発癌を伴わない肝硬変症例も多くみられるため、線維化とは独立した発癌のバイオマーカーが求められる。長期経過観察が可能であったNASH30症例についてpSmad3C抗体、pSmad3L抗体を用いて免疫組織染色を行い肝細胞におけるSmadのリン酸化状態と発癌や線維化との関連を検討した。NASHの軽度線維化(stage1,2)14例中2例は発癌しており、発癌した2例はともにpSmad3Lは増加しpSmad3Cは低下していた。高度線維化(stage3,4)16例中5例は10年以上の経過観察で発癌を認めず、それら5例はpSmad3Lの増加がなくpSmad3Cは低下していなかった。pSmad3Lが豊富な12例中11例で発癌を認めたが、pSmad3Lの乏しい18例のうち発癌を認めたのは2例のみであった(log-rank 0.0009)。対照的にpSmad3Cが乏しい15例中12例で発癌したが、pSmad3Cが豊富な15例のうち1例でのみ発癌した(log-rank 0.0022)。同様の検討を、非ウイルス性肝疾患である原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者でも行い報告した。NASHでは、炎症経路を共有して肝線維化と発がんが同時に進行する場合と、炎症や線維化がほとんどない状態で肝発癌に至る場合があり、そのいずれの場合においてもリン酸化Smadシグナルが重要であることを報告した。
|