研究実績の概要 |
TGF-βシグナル伝達系は、がんの発生/悪性化に対して二面性を示す (図1)。その活性はがんの進展過程や、がん種に応じて複雑に制御されているとされるが、全貌は明らかではない。GPI型膜タンパク質CD109はTGF-βシグナルを抑制し (図2) 細胞増殖を促進すると考えられ、実際、扁平上皮がんでの発現亢進が報告されている。一方JAK/STATシグナル伝達系の制御に働く(Chuang, Nature Med, 2017)との報告もあり、がんにおけるCD109の機能にはまだ議論がある。申請者は、腺がんである膵がんにおいても、CD109の発現が亢進していること、またその発現が膵がん細胞株の造腫瘍性に必須であることを確認した。そこで本申請では、CD109が膵がんのバイオマーカーや治療標的となりうるか検証するため、①臨床検体でのCD109の発現、および他のマーカー(TGF-β、JAK/STATシグナル関連分子など)発現や、免疫系細胞(制御性T細胞など)浸潤との相関、②マウスモデルにおける造腫瘍性や転移への関与、③膵がんにおける転写制御機構、を検討/解明する。本申請では、難治性がんである膵がんで、CD109のシグナル機能を解明し、病態の理解や治療法開発に向けた基礎データを収集する。その成果は、TGF-βシグナル伝達系制御の新側面を明らかにする可能性もある。本年度は膵癌細胞を用いて複数のCD109ノックアウト細胞を作成し、その性質を解析した。また、膵癌患者のCD109発現をしらべ、臨床情報との相関を検討した。
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