本研究の目的は、十二指腸上皮性腫瘍の免疫組織学的解析を行い、臨床に還元可能な免疫組織学的所見の同定を目指すことと、十二指腸上皮性腫瘍のコード遺伝子・非コード遺伝子の網羅的発現解析を行い、発症・促進の分子機序の解明することである。
まず、一つ目の目標に関しては、東京大学医学部付属病院並びに関連施設において内視鏡的に切除された十二指腸上皮性腫瘍の組織標本を用いて癌マーカー、消化管分化マーカーの免疫染色を行い、十二指腸上皮性腫瘍の臨床的特徴や背景因子との比較を行った。我々は既に内視鏡的に切除された検体において、消化管分化マーカーのうち、腸型マーカーを発現する腫瘍は悪性度が低く、胃型マーカーを発現する腫瘍は悪性度が高い可能性について発表している。同様の傾向が内視鏡切除の対象となる病変に限らず、外科的切除の対象となるような進行癌でも観察可能かどうかについての検討を行った。結果的には、進行癌でも消化管分化マーカーの発現は同様の傾向を示したが、さらに悪性度が高くなると、消化管分化マーカーの発現が低下する傾向もみられ、新たな知見と考えられた。症例数を増やし、転移や浸潤の傾向と分化マーカーの発現の傾向が一致すれば、重要な予後因子として臨床に還元可能であると考える。
次に、二つ目の目標に関して、腫瘍部と非腫瘍部それぞれの生検1回分の組織検体から全RNA抽出を行い、マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行った。十二指腸上皮性腫瘍において発現が低下、あるいは上昇している候補遺伝子群を同定し、腫瘍部と非腫瘍部において、マーカーとして重要と考えられる遺伝子群を同定するべくクラスター解析を行った。その結果、腫瘍部と非腫瘍部で発現する遺伝子群が明瞭に分かれた。さらに発現差が大きい遺伝子を同定し、候補遺伝子については抗体を作成し、臨床検体においてその有用性について検討する予定である。
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