研究課題
B型肝炎ウイルス (HBV) や C型肝炎ウイルス (HCV) 感染症は、肝細胞がんを誘発する重大な感染症である。現在、HBVやHCV感染に起因する肝病態の進展を防ぐための有効な治療法は確立されておらず、新規治療法の開発が急務である。retinoic acid-inducible gene I (RIG-I) は、細胞質内に侵入したウイルスを認識して免疫応答をスタートさせる司令塔分子である。 HBVやHCVは、RIG-Iによる免疫応答を巧みに回避して持続感染を成立させるが、その逃避機構の全容は解明されていない。申請者は、RIG-Iによるウイルス認識を制御する宿主因子としてSelenoprotein P (SeP) を同定し、ウイルス感染時の免疫逃避機構に関する重要な知見を得た(Murai et al. Cell Host Microbe. 2019)。 SePのmRNAは、生体リガンドの結合を阻害する部分断片 (Decoy RNA) としての機能を有しており、RIG-I のタンパクと結合し相互作用することでウイルス認識能を著しく低下させ、免疫応答を負に制御していた。RIG-IはHBVやHCVだけでなく、インフルエンザウイルスやセンダイウイルスをはじめとした広範なRNAウイルスを認識して、抗ウイルス効果を発揮することが知られている。また近年、肝内のRIG-Iの発現が、肝細胞がんに対する治療効果や生存率に関連していることも報告されている。RIG-Iの新たな制御機構を詳細に解析する本研究は、ウイルス感染による肝病態を制御するための新規治療法考案に大きく貢献すると同時に、ウイルス学・免疫学・腫瘍学といった、広い研究領域に波及効果をもたらすと考えられる。
2: おおむね順調に進展している
申請者は、RIG-Iによるウイルス認識を制御する宿主因子としてSelenoprotein P (SeP) を同定し、ウイルス感染時の免疫逃避機構に関する重要な知見を得た(Murai et al. Cell Host Microbe. 2019) 。SePのmRNAは、生体リガンドの結合を阻害する部分断片 (Decoy RNA) としての機能を有しており、RIG-I のタンパクと結合し相互作用することでウイルス認識能を著しく低下させ、免疫応答を負に制御していた。本研究の成果として論文が受理されたため概ね順調に進展していると言える。近年、RIG-Iが肝臓がんに対する癌治療効果を規定する因子として報告され、その機能について関心が高まっている。RIG-Iに関する論文報告は多く存在しているが、肝疾患においてRIG-Iがどういった機能的役割を担っているのか、あるいは、どういった制御を受けているのかという知見に乏しい。その背景には、C57L/B6 マウスを用いた肝がんの動物モデルが存在しないという問題がある。当研究室では、独自の手法で、新規のマウス肝癌細胞株『MHCF1』と、胆管癌細胞株『MHCF5』を樹立し、C57L/B6 マウスを用いた肝がん移植モデルの開発に成功した。そのため、今後RIG-Iが肝がんの腫瘍免疫にどのような影響を与えるか評価ができる実験系が整っている。よって、今年度以降も順調に進行していけると考えられる。
RIG-Iは、その代表的な役割として抗ウイルス効果が報告されているが、近年においては、肝臓がんに対する癌治療効果を規定する因子としての報告があり、肝炎ウイルス感染が招く肝病態形成に密接に関わっていることが示唆されている。RIG-Iに関する論文報告は多く存在しているが、肝がんにおいてRIG-Iがどういった機能的役割を担っているのか、あるいは、どういった制御を受けているのかという知見に乏しい。本研究によって明らかになってきたRIG-Iの制御機構のさらなる解明から、肝がん抗腫瘍免疫に及ぼす影響が明らかにできると考えている。今後の予定は、当研究室が独自の手法で樹立した、新規のマウス肝癌細胞株『MHCF1』と、胆管癌細胞株『MHCF5』を用いた肝がん移植モデルで、RIG-Iの機能解析を行っていく。具体的には、RIG-I過剰発現、発現抑制細胞を作成し、免疫チェックポイント阻害治療などとの治療効果に影響を与えるかを検討する。また、近年我々が論文に報告した、RIG-IのDecoy RNAが腫瘍免疫や免疫治療効果にどういった影響を与えるかの解析を行っていく予定である。さらに、当研究室には、ウイルス性肝炎に起因する様々な肝病態ステージの患者より得られた臨床サンプルが豊富に揃っているため、基礎研究と臨床研究を同時に行い、フィードバックして解析することで、創薬実現の可能性を引き揚げていく必要があると考えている。
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Cell Host & Microbe
巻: 25 ページ: 588-601
10.1016/j.chom.2019.02.015.