B型肝炎ウイルス (HBV) や C型肝炎ウイルス (HCV) 感染症は、肝細胞がんを誘発する重大な感染症である。現在、HBVやHCV感染に起因する肝病態の進展を防ぐための有効な治療法は確立されておらず、新規治療法の開発が急務である。retinoic acid-inducible gene I (RIG-I) は、細胞質内に侵入したウイルスを認識して免疫応答をスタートさせる司令塔分子である。 HBVやHCVは、RIG-Iによる免疫応答を巧みに回避して持続感染を成立させるが、その逃避機構の全容は解明されていない。申請者は、RIG-Iによるウイルス認識を制御する宿主因子としてSelenoprotein P (SeP) を同定し、ウイルス感染時の免疫逃避機構に関する重要な知見を得た。 HCV感染によって発現誘導されたセレノプロテインPのmRNAのORF領域が、RIG-Iタンパクに結合し、活性化に必要な構造変化を妨げることにより、抗ウイルス作用を有するIFNの誘導を抑制していること明らかにした。 本研究では、肝臓における抗ウイルス免疫制御機構の一つとして、セレノプロテインPのmRNAによるRIG-Iを介した自然免疫の制御機構を明らかにした。RIG-Iの機能を宿主由来のmRNAが制御するという新たな知見は、今後ウイルスに対する自然免疫応答に対する基礎研究を発展させると考える。
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