研究実績の概要 |
アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis, NASH)における新たな抗線維化治療薬の創出を目標として,前年度に引き続きRGDインテグリン阻害剤(CWHM-12)が肝臓の線維化をもたらす活性化肝星細胞(HSCs)に与える直接的な作用について検証した. 不死化肝星細胞株であるLX2細胞とTWNT1細胞に対して一定の濃度でCWHM-12を添加すると,RGDインテグリンが阻害されることで,細胞の活性化指標であるαSMAの遺伝子(ACTA2)ならびにタンパク発現が低下することから,細胞の活性が抑制されたと考えられた.また細胞周期がG1期で停止し,同時にアポトーシスが誘導されることで,結果的に細胞増殖が抑制されることが明らかとなった.また代表的なRGDインテグリンであるαvをRNA干渉により阻害した場合にも同様の結果が得られることが確認できたため,RGDインテグリンが肝星細胞の活性化抑制,ならびに増殖や細胞死に関与していることが示された.続いてその機序を解明するために,細胞増殖やアポトーシス、幹細胞の自己複製を制御しているHippoシグナルに着目して研究を行った.通常では活性化状態の肝星細胞においてHippoシグナルはOFFの状態であるが,RGDインテグリンをCWHM-12によって薬理学的に阻害すると,RGDインテグリンに細胞内で結合している非受容体型チロシンキナーゼであるFAKを通じてHippoシグナルはONの状態となることが示された.これらの結果からRGDインテグリンは肝星細胞においてHippoシグナルを通じて細胞の活性化,増殖,生存に関与していると考えられ,これを薬理学的に阻害することで活性化肝星細胞を抑制し抗線維化作用をもたらす可能性が示された.
|