近年の研究により、CAFには、がんの進行を促進する「がん促進性CAF」と、がんの進行を抑制する「がん抑制性CAF」の両者が存在することが知られていた。前者のがん促進性CAFについてはマーカーも知られており、多くの研究者が興味の対象としてきたが、後者のがん抑制性CAFの本態およびマーカー分子は知られていなかった。申請者は2019年、世界に先駆けてがん抑制性CAFのマーカーMeflinを同定し、またマウスモデルを用いた細胞系譜実験によって、Meflin陽性がん抑制性CAFが、がんの進行中にMeflin陰性がん促進性CAFに形質転換する(CAFのがん細胞側への寝返り現象)ことを明らかにした。 次いで、がん促進性CAF(Meflin陰性)を抑制性CAF(Meflin陽性)に変換することの可能な化合物のスクリーニングを行ったところ、レチノイドの一種を同定した。同薬は我が国で開発された合成ビタミンA誘導体であり、我が国でのみ急性前骨髄性白血病に対して承認されている。 膵がんマウスモデルにおいて着目したレチノイドはCAFにおけるMeflinの発現の増強を介して抗がん剤の効果を増強している可能性が示唆された。 名古屋大学医学部附属病院にて未治療の切除不能膵がん(遠隔転移例及び局所進行切除不能例)の患者に対して、間質初期化薬として着目したレチノイドとゲムシタビンおよびナブパクリタキセルの併用療法の効果を検証する医師主導治験の第I相部分を開始した( jRCT臨床研究実施計画番号: jRCT2041210056、ClinicalTrials.gov Identifier:NCT05064618)。
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