慢性肝疾患患者の肝細胞では、肝炎ウイルスやエタノール等による種々のストレス刺激により癌抑制遺伝子p53が恒常的に活性化していることが知られている。我々は、肝発癌モデルマウス(肝細胞特異的Kras変異マウス)において、p53の分解を促すMdm2を肝細胞特異的に欠損させると、p53が分解されず蓄積されて活性化し、肝発癌が促進することを見出した。そこで本研究課題では、p53活性化による肝発癌促進機序について検討した。 肝細胞特異的Mdm2欠損Kras変異マウスは持続的な肝障害を示し、背景肝組織では炎症関連シグナル経路の活性化を認め、肝細胞のアポトーシスの亢進、細胞老化・senescence-associated secretary phenotype (SASP)がその一因であると考えられた。また背景肝組織では肝前駆細胞の出現が認められた。肝腫瘍は肝前駆細胞を起点として広がるように形成され、種々の肝前駆細胞マーカーを発現していた。肝前駆細胞をオルガノイドとして抽出すると、オルガノイドは造腫瘍性を示した。また肝前駆細胞のアポトーシス誘導作用を有する非環式レチノイドを投与すると、肝細胞特異的Mdm2欠損Kras変異マウスの腫瘍形成は抑制された。 これらの結果から、肝細胞におけるp53の活性化は肝障害に伴い肝前駆細胞の出現を誘導し、肝前駆細胞に由来する腫瘍形成を促進することが明らかとなった。本研究課題により、代表的な癌抑制遺伝子であるp53の新たな一面が明らかとなるとともに、活性化したp53が慢性肝疾患患者における肝発癌予防のための新たな治療標的となることが示された。
|