研究実績の概要 |
現在、組織生検を行わす、末梢血中の癌細胞や癌由来 DNA(circulating tumor DNA, ctDNA)を検出することにより診断を行う、Liquid biopsyが可能となりつつある。一方で、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)に代表される炎症性腸疾患(IBD)は本邦におけるライフスタイルの欧米化に伴い爆発的に増加している。IBDにおける癌化は罹患期間が一つのリスク因子であることが判明しており(N Engl J Med 372: 1441-1452, 2015)、IBD関連腫瘍に対する対策は急務とされている。しかし、IBD関連腫瘍は背景の炎症のため内視鏡診断が困難となり組織生検そのものが難しく、また、鋭敏な腫瘍マーカーもない。 本研究の目的は、Liquid biopsyを利用し、血液中のctDNAに加え、さらに情報量が多いと予測される糞便中のctDNAにも着目し、IBD関連腫瘍の新たな診断法を開発することである。また、近年大腸癌の増悪因子としても報告されているフソバクテリウムにも注目し(Science 358: 1443-1448, 2017)、IBD関連腫瘍と腸内細菌叢などの環境因子との関連についても検討を加えるとともに、ctDNAの起源についての検証も行う。 IBD関連腫瘍のliquid biopsyに関して組織腫瘍DNAと血液ctDNAのターゲットとなり得る遺伝子において100%の一致率の研究成果を報告し、その可能性を示すことに成功した。また、大腸腫瘍とフソバクテリウムの分布に関しては、腫瘍内分布においては病期の進展とともに腫瘍表層のフソバクテリウム存在率が最も高く、一方で、表層と深層の不均一性を報告した(J Gastroenterol Hepatol 36: 1869-1876, 2021)。ctDNAの起源に関しては、ゼノグラフトマウスモデルによりctDNAの起源と動態について検証し、半減期1.8-3.2時間など新たな知見を報告した(World J Gastroenterol 27: 7134-7143, 2021)。
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