本研究は、B型肝炎の核酸アナログ製剤治療後の発がんリスクにおけるマイクロRNA(以下miRNA)の重要性を明らかにすることを目的とする。慢性B型肝炎で、核酸アナログ製剤治療を受けた症例で、治療前後に肝生検を行うことのできた症例(総計52例)を解析対象とした。症例を、核酸アナログ製剤治療後のフォローアップ期間中(2年以上)に肝発がんを認めなかった群(非発がん群)と、肝発がんを認めた群(発がん群)に大別した。発がん群8例、非発がん群10例の治療前後におけるmiRNA発現を、Agilent Human miRNAマイクロアレイV3で解析した。健常者4例を正常対照群として用いた。 前年度の解析から、肝発がんに関わるmiRNAとして、miR199a-3p、miR-199a-5p、miR-101、let-7g、miR-140、miR-152など12種類を同定した。これらのmiRNAは慢性B型肝炎において発現が変化しているが、核酸アナログ製剤治療後の発現が、発がん群と非発がん群で異なっている。これらのmiRNA発現が核酸アナログ治療後に正常パターンに近づいた症例は、長期間にわたって発がんが認められず、一方、治療後も発現異常が継続する症例では発がんが見られたことから、これらのmiRNA発現が肝発がんリスクに関わっていると考えられた。また肝がん細胞株を用いた機能解析の結果、これらのmiRNAが増殖、遊走、浸潤を抑制することを見いだした。これらの中からmiR-199a-3pについてさらに解析を進め、miR-199-3pの標的遺伝子としてCDK7とTACC2を新たに同定した。 これらの結果から、核酸アナログ製剤治療後の肝発がんは複数の腫瘍関連miRNA発現異常が関わることと、miRNAの正常化が肝発がん予防に有効である可能性が示唆された。
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