チオプリン製剤は炎症性腸疾患の寛解維持療法のkey drugの一つである。しかし、その代謝経路の複雑性と代謝能の個体差から至適な効果を得るために必要な投与量は患者毎によってまちまちであり、また重篤な白血球減少や脱毛といった副作用が時に問題になる。近年NUDT15遺伝子多型が白血球減少のリスク因子であることが明らかとなった。 本研究はNUDT15遺伝子多型(R139C)の有無によってチオプリン製剤代謝物の白血球中DNAへの取り込みの違いや白血球減少との関連を検討し、NUDT15遺伝子変異患者においてチオプリン製剤による重度の白血球減少が起こる機序を解明することを目的としている。 今年度までの検討において、NUDT15遺伝子変異(R139C)を有する患者は、野生型に比べ、チオプリン製剤投与により、その代謝産物であるdeoxythioguanosine(dTG)の白血球中DNAへの取り込みが亢進していること、また白血球DNA中のdTG濃度と末梢血リンパ球数の間には負の相関があること、さらにチオプリン製剤を使用していない患者から単離したCD4陽性リンパ球とチオプリン誘導体である6-thioguanineの共培養によって経時的にリンパ球のアポトーシスが誘導されることと、そのアポトーシスは特にNUDT15遺伝子変異(R139C)によって促進されることが明らかとなった。これらの結果より、炎症性腸疾患患者におけるNUDT15遺伝子多型(R139C)がチオプリン製剤による白血球DNAへのdTGの取り込み促進とアポトーシス促進と関連しており、重篤な白血球減少が起こりやすい機序として関わっていることが示唆された。本研究結果は2021年度にJournal of Gastroenterology誌へ掲載された。
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