前年度までに肝癌細胞株のミトコンドリア内にSGLT2が発現している事、SGLT2阻害剤を肝癌細胞株に投与することで肝癌細胞株の増殖が抑制される事、肝癌細胞株の増殖抑制効果が、アポトーシスではなく、細胞周期の低下による増殖能の低下によるものであること、さらにメタボローム解析にてSGLT2阻害剤は複数の代謝経路を変更させる効果を確認できた。 さらに詳細に代謝経路の変化を追求するためにプロテオーム解析を同様の実験系で行い、2つのオミックス解析を用いることでより詳細な代謝の変化を確認した。明らかに変化した経路として、1)電子伝達系、2)脂肪酸代謝経路、3)DNA合成経路であるピリン、ピリミジン経路、の3経路が主に代謝の変化を起こしていることが明らかとなった。 電子伝達系ではATP産生に直接的に関与する、ComprexVの活性化が低下していた。脂肪酸経路では、β酸化の亢進を認めており、最終代謝産物であるケトン体の有意な増加を認めた。 また、電子伝達系の低下を介してATPの産生が低下していることから、AMPKの活性化についても確認を行った。AMPKのリン酸化およびACCのリン酸化をウエスタンブロットで確認を行い、AMPK-ACC経路を介して脂肪酸の合成が抑制されている可能性が示唆された。また、プリン、ピリミジン経路はDNA、RNA合成経路であるが、合成に関与するNucleoside diphosphate kinase Aの低下を認めた。以上のことから、SGLT2阻害剤はミトコンドリア内のSGLT2を介して、様々な経路から肝癌細胞株の増殖抑制を起こす可能性が考えられた。 さらにヒト肝癌組織におけるSGLT2の発現を確認した後、ヒト肝組織、脾臓、心筋組織においてもSGLT2が発現していることを確認した。
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