研究課題/領域番号 |
19K17456
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
野阪 拓人 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (70748441)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 肝細胞がん / エイコサノイド / アラキドン酸 / ロイコトリエン / がん微小環境 |
研究実績の概要 |
進行肝細胞がんの進展制御は、現治療法では未だ困難であり、詳細な進展機構の解明と、それに基づく治療法の開発が重要な課題である。申請者は、アラキドン酸を基質に生成される生理活性脂質(エイコサノイド)が炎症関連腫瘍進展分子であることに注目して、肝細胞がん肺転移の新規進展機構を報告してきた。本研究では肝細胞がんにおけるエイコサノイドの腫瘍進展機構を解明し、産生制御薬による治療法の確立を目指している。 マウス由来肝がん細胞株BNL細胞をBALB/cマウスに経門脈的に接種する肝内転移モデルを用いて以下の点を明らかにした。肝細胞がん肝内転移後、エイコサノイド産生阻害薬である5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)阻害薬(Zileuton)を連日腹腔内投与することで、腫瘍増大が抑制されることを確認した。そして、腫瘍内Ki-67染色陽性細胞が減少を認めた。次に、In vitro sphere formation assayでマウス、ヒト肝がん細胞株にロイコトリエンB4(LTB4)またはLTC/D/E4を添加すると、形成スフィア数が増加することを示した。 次に、肝細胞がんにおける5-LOX発現細胞の同定と動態に関して検討した。免疫組織化学染色にて、マウス、ヒト肝細胞がん組織にて、正常肝と比べ5-LOX発現細胞の増加を確認した。蛍光免疫多重免疫染色法にて5-LOX発現細胞は転移巣内マクロファージであることを示した。そして、マクロファージ誘導能を有するケモカインCCL2の発現を検討すると、マウス肝細胞がん組織において、CCL2が発現上昇していた。 以上より、LTが肝細胞癌の肝細胞がん幹細胞の誘導または増殖に関与している可能性が示され、また、転移巣内マクロファージがLT産生候補細胞であり、腫瘍形成過程において、CCL2により腫瘍内に誘導されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、肝細胞がん肝内転移マウスモデルを用いてエイコサノイド産生抑制による腫瘍進展抑制効果の確認、In vitro解析による分子病態学的検討、ヒト肝細胞がん病理検体を用いた臨床学的応用の可能性について検討・解析することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、肝細胞がん肝内転移マウスモデルやIn vitro assayで確認された研究結果をもとに、肝細胞がん患者臨床組織検体において検証する。具体的には、肝細胞がんに対し外科的切除術を行った組織標本において、新たに5-LOX陽性細胞数、Ki-67陽性細胞数、CD90・CD133発現を解析し、同患者における術後肝内転移・肝内再発、また、全生存期間との相関について比較、検討を行う。これらの結果で相関を認めた場合、実臨床においても肝細胞がんの肝内転移や進展にLTが関与している可能性と、その重要性が高まると考えられる。 また、肝細胞がんにおける5-LOX発現細胞は腫瘍内マクロファージであることをヒト・マウス組織検体を用いて同定した。今後、実際のロイコトリエン産生能について検証を予定している。肝臓内マクロファージをセルソーター(BD;FACSAriaⅡ)でソーティングし、培養後に、上清を回収する。培養上清をELISA法を用いてLT産生量(LTB4、LTC4、LTD4、LTE4)を測定する。また、培養上清をIn vitroでヒト・マウス肝細胞に添加し、増殖活性や幹細胞マーカー発現の影響についても検討している。 今回、肝細胞がん組織において、マクロファージ遊走能を有するケモカインCCL2の発現上昇を確認した。今後、CCL2のレセプター欠損マウスを利用し、マクロファージの浸潤や、LT産生量の差異について検証を行う。 申請者らは、肝細胞がん肺転移研究にて同アプローチで研究成果を挙げており、今後のこれらの研究についても実現可能と考えている。
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