研究課題
本研究は、消化器系臓器における発癌過程において、転写後調節を行うRNA分解酵素であるRegnase-1が果たす役割を明らかにすることを目的としている。まずヒト大腸癌細胞株(SW48)に対してIL-1βによる刺激実験を行ったところ、刺激1時間後よりRegnase-1は速やかに誘導されれることがわかった。次にヒト大腸癌におけるRegnase-1発現レベルを検討するため、ESD検体および切除検体のパラフィン切片を用いて免疫染色を行った。その結果、多くの症例で腫瘍部にRegnase-1の高発現を認めた。次にヒト大腸癌細胞株(Caco-2)を用いて、Regnase-1が標的としているmRNA候補の同定を行った。siRNAを用いてRegnase-1ノックアウトを行い、RNA-seq(Illumina NovaSeq6000)によりRNA発現変化を網羅的に探索した。その結果、KIT, E2F2, CCND3, TNS4, DNMT3B, METといった複数のの癌関連遺伝子のmRNA発現が上昇していることが判明し、他のcell line(SW48, HT29)を用いても同様の結果が得られた。さらにCaco-2を用いてRegnase-1のover-expression実験を行い、上記結果の裏付けを得ることができた。現在、これらの候補遺伝子について、実際にRegnase-1によるdegradationが起こっているかどうかにつき引き続き検証を進めているところである。またマウス実験においては、腸管特異的にRegnase-1をノックアウトしたマウス(Villin-Cre; Reg1fl/fl; ApcMin/+)において、非ノックアウトマウスと比較して有意な大腸腫瘍の増加を認めた。すなわちRegnase-1は大腸で腫瘍抑制的に働いている可能性を示唆しているものと考え、さらに実験を進めている。
2: おおむね順調に進展している
現在のところ、消化器系臓器の中でも大腸癌に標的を絞って研究を進めており、大腸癌臨床検体およびヒト大腸細胞株を用いたin vitro実験、腸管特異的Regnase-1ノックアウトマウスを用いた発癌実験を並行して行っている。研究実績の概要に記載の通り、いずれの実験においても大腸癌の発生機序においてRegnase-1が関与している可能性を示唆する結果が得られつつあり、おおむね順調に研究が進展しているものと考えている。
大腸癌細胞株でのRegnase-1の標的mRNA候補の同定については、これまでに候補として挙がったKIT, E2F2, CCND3, TNS4, DNMT3B, METといった各種癌抑制遺伝子のmRNAが、実際にRegnase-1によるdegradationの標的となっているかどうかを検証するため、3'UTR luciferase assayやRNA-IPによる追加実験を予定している。またマウスを用いた実験においては、ApcMin/+マウス発癌において、Regnase-1は大腸で腫瘍抑制的に働いている可能性があることを示唆する結果が得られてきており、今後さらにマウス数を増やし、その表現型解析およびRegnase-1の標的候補遺伝子の発現レベルの検討を行ってゆく予定である。
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