肝内胆管がんは予後不良な疾患として知られているが、有効な治療方法が十分に開発されているとは言い難い。その発癌メカニズムに不明な点が多く、そのことが治療方法の開発の妨げとなっていると考えられる。そこで我々は、既知の胆管がん抑制遺伝子であるPtenを欠損したマウスを用い、トランスポゾン挿入変異スクリーニング法という新たな手法を用いることで、胆管がんの新規のがん遺伝子を同定することに成功した。この遺伝子を用い、胆管がんの発がんモデルマウスを新たに作成することにも成功した。本マウスは短期間で胆管増生、また胆管がん発がんを認め、胆管がんの発がんメカニズムの解明、または治療方法の開発に大きく寄与することが予想される。 我々が行った検討では、肝細胞特異的に本遺伝子を抑制した場合は胆管がん発がんを認めるが、胆管細胞特異的に抑制した場合は同様の表現型を認めないことがわかった。同様の現象を肝細胞株、肝癌細胞株においても再現できることを確認した。また、マウスの肝臓からオルガノイドを作成し、このオルガノイドにレンチウイルスを用いて本遺伝子を欠損させたところ、同様の表現型を認めることがわかった。以上の結果から、胆管細胞ではなく肝細胞において本遺伝子が抑制されることで胆管細胞への形質転換を伴う胆管がん発がんのメカニズムが考えられた。 本遺伝子は胆管がんの抑制遺伝子であり、胆管がんの治療ターゲットとする同遺伝子を活性化する試薬の開発が必要であり、そこには困難が予想される。そこで、今後は本遺伝子の下流で胆管がん発がんに寄与するがん遺伝子を同定し、その遺伝子をターゲットとした試薬の開発を行うことで、胆管がんの治療方法の開発につながる研究を続けていきたいと考えている。
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