研究課題/領域番号 |
19K17464
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
武原 正典 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 特任助教 (60836675)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膵癌 / 脂肪細胞 / 癌微小環境 / SAA1 / 転移 / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
膵癌と共培養した脂肪細胞が線維芽細胞様の形質へと転換する(Cancer Associated Adipocyte:CAA)ことを見いだし、このCAAの培養上清(Conditioned Medium:CM)を用いてヒト膵癌細胞株(PANC-1, PK-1)を培養することで、上皮間葉転換(Epithelial - Mesenchymal Transition:EMT)が起こり、遊走能・浸潤能、および5-FUに対するdrug resistanceが亢進することを確認した。 CAA-CMで培養したPANC-1からmRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行い、約300の遺伝子の発現が2倍以上に変化していた。特にSAA1の発現が75倍まで上昇しており、IPAなどのデータベース解析を加えると、SAA1の上昇が遊走能や浸潤能の亢進に関与している可能性が高いと考えられた。 siRNAを用いてSAA1のknock downを行うとCAA-CMで培養したPANC-1, PK-1のEMTは阻害され、遊走能・浸潤能や5-FUに対するdrug resistanceがnegative controlに対して低下していた。以上のことから、SAA1は膵癌と脂肪細胞の相互作用における悪性度上昇のkey moleculeになっていると考えられた。 また、当院で外科手術が施行されたヒト膵癌検体61例を対象としてSAA1の免疫染色を行い、46例(約75%)にSAA1の発現が認められた。このことからヒト膵癌においてもSAA1の発現を介した浸潤や転移、抗腫瘍薬に対する耐性が導入されている可能性が高いと考えられた。 現在、SAA1が膵癌細胞のどのようなpathwayを調節しているのかの検討、およびSAA1発現と膵癌手術後の無再発生存期間・全生存期間との関連を評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵癌と脂肪細胞との相互作用において、マイクロアレイ解析データからIPA解析などのデータベース解析を加えてSAA1の発現が癌微小環境に存在する脂肪細胞(Cancer Associated Adipocyte:CAA)によって誘導されていることが分かり、さらにSAA1をsiRNAを用いて発現を低下させることで上皮間葉転換(Epithelial - Mesenchymal Transition)や浸潤能・遊走能・抗癌剤耐性が阻害されることが分かった。ヒト膵癌検体を用いたSAA1の免疫染色ではヒト膵癌においても高率にSAA1が発現していることが判明し、予後との相関を評価中である。計画していた研究計画では今後マウス膵癌モデルを用いてSAA1の阻害が予後を改善することができるかを評価する実験を残すのみであり、SAA1 shRNAの膵癌細胞株への導入からマウスへの移植、生存期間の評価を今後行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として、ヒト膵癌検体を用いたSAA1の免疫染色によるSAA1発現と無再発生存期間や全生存期間といった予後との相関をLog-rank検定を用いて評価する。また、T stageやN stage、腫瘍マーカーといったその他の予後因子と別個に予後予測マーカーになりうるか、多変量解析を用いて評価を予定している。 今後マウス膵癌モデルを用いてSAA1の阻害が予後を改善することができるかを評価する実験を残すのみであり、SAA1 shRNAの膵癌細胞株への導入からマウスへの移植、生存期間の評価を今後行っていく予定である。 また、今後の分子標的治療についての可能性などを検討するためにSAA1が膵癌のどのようなpathwayを介して上皮間葉転換や遊走能・浸潤能・薬剤耐性を調節しているのかについてもNF-κB やMAP kinaseといった既存のpathwayの評価をWestern Blotなどで行うことを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬等、3月に納品が完了したが支払いが4月になったため、次年度使用額が生じた。
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