昨年までの研究結果から、脂肪細胞によって膵癌細胞のSAA1発現が誘導されることで浸潤能・遊走能の亢進やEMTの促進が起こっていると考えられた。SAA1 siRNAを膵癌細胞に導入して膵癌細胞に起こる変化を確認したところ、浸潤能や遊走能は低下し、EMTも抑制されたという結果が得られ、脂肪細胞はSAA1の発現促進を介して膵癌細胞の悪性度を上昇させるという知見が得られた。また、SAA1がどのようなpathwayを介して膵癌細胞の悪性度上昇に寄与しているかを検討するため、文献検索やIPA解析などのdatabase解析を行ったところ、NF-κB pathwayに関与している可能性が高いと考えられ、Western blotで解析を行ったところ、脂肪細胞の培養上清で培養した膵癌細胞ではp65のリン酸化が促進されており、siRNA SAA1を導入した膵癌細胞ではp65のリン酸化が抑制された。このことからSAA1がp65のリン酸化を促進し、NF-κB pathwayに関与して膵癌の悪性度を上昇させているという知見が得られた。また、ヒト膵癌手術検体を用いてSAA1の発現の有無を免疫染色で検討し、その発現の有無と術後の無再発生存期間・全生存期間との相関について検討したところ、SAA1の発現と全生存期間には負の相関があることが確認された。これまでに得られた脂肪細胞と膵癌細胞との相互作用によってSAA1の発現が亢進して、膵癌の悪性度が上昇するというin vitro、及びヒト手術検体kを用いた研究成果については、論文を作成し、Cancer Science volume111 Issue8 2883-94に掲載された。
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