前年度はBRD4阻害剤JQ1が肝がん細胞株に対し高い抗腫瘍効果を示す事を明らかにし、MYC、E2F2などのがん遺伝子発現を強く抑制することを確認した。またBRD4阻害剤JQ1処理後の遺伝子発現をマイクロアレイで解析した。 本年度はこれまでに得たマイクロアレイデータの解析を行った。9株の肝がん細胞株から取得したマイクロアレイデータから、JQ1処理により5497種類の遺伝子の発現が変動することを見いだした。Gene Ontology解析の結果、発現変動する遺伝子群には細胞膜や細胞内オルガネラに関わる遺伝子が顕著にエンリッチしていた。またpathway解析からは、RB in cancer、G1 to S cell cycle、Apoptosisなど、がんとの関わりが深い遺伝子群がエンリッチしていることが明らかとなった。次に、肝がん細胞におけるBRD4の新規ターゲット遺伝子を同定するため、JQ1処理によって発現が低下する226種類の遺伝子をマイクロアレイデータから絞り込んだ。TCGAなどの公開データも統合することで、原発性肝がんで高発現し、かつJQ1処理で発現が抑制される遺伝子として、BCAT1、FANCD2、MAPK3、NUAK1、PAK1、SENP1、TYRQ3、DDR1、GDF15を同定した。このうち、BCAT1、DDR1、SENP1、TYRQ3の発現上昇は、肝がんの予後不良と相関した。またBCAT1、DDR1、FANCD2、GDF15、MAPK3、NUAK1、PAK1、SENP1、TYRQ3の6遺伝子は、複数の肝がん細胞株においても高発現していた。それらの遺伝子転写開始点におけるBRD4の結合がクロマチン免疫沈降(ChIP)-PCRによって確認されたことから、これらは肝がんにおけるBRD4標的遺伝子であると考えられた。
|