本研究では、大腸癌がNKcell(ナチュラルキラー細胞)に耐性を獲得するメカニズムを解明するために、MSS大腸癌およびMSI-H大腸癌を模倣する遺伝子改変マウス大腸オルガノイドをCRSIPR/Cas9技術にて作成した。癌化オルガノイドをNKcellと共培養したところ、MSSオルガノイドはNKcellに感受性を示しMSI-H癌化オルガノイドはNKcellに耐性を獲得していた。耐性獲得にTGF/Smad経路の関与がないかを検証するために、MSSオルガノイドにTGF/Smad経路に異常を来たす遺伝子改変を追加したが、NKcellへの感受性は維持されたままであった。一方、MSS株ではMHCcalss1の発現低下が最も大きくNKcell感受性維持に寄与しているものと示唆された。 免疫細胞との共培養系においては、従来の細胞内のATP活性を計測する方法では、免疫系細胞とその攻撃対象となる癌化細胞との区別がつかないため困難であったが、本研究では、あらかじめホタル型ルシフェラーゼを癌化細胞に安定発現させておくことで、共培養条件においても、癌化細胞だけの細胞活性を計測することが可能となり、今後、同様の共培養実験に応用できる技術である。 近年、免疫チェックポイント阻害剤の実用化に伴い、大腸癌でも同阻害剤の使用が進んでいる。しかし、既存の免疫チェックポイント阻害剤は、固形癌ではMSI-Hに分類される一部の癌にしか奏功しないことが、近年明らかになった。大腸癌でMSI-Hと分類されるのはおおよそ10%以下とされており、多くの大腸癌には無効である。本研究では、MSS、MSI-HのB6マウス大腸癌オルガノイド株を作成した。生物学研究において最も頻用されているB6近交系マウス由来のオルガノイド株を作成できたことは、NKcellに関連する免疫研究においては、MHCclass1が同一であることが重要であることか、今後の研究に有用と考えられる。
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