研究課題
本年度はIn vitro系において、引き続き膵癌初代培養細胞株と筋芽細胞の共培養実験について、複数の細胞株を用いて共培養を行い、qPCR法を用いて筋分化マーカーの定量(MyoDやMyogeninなど)を行った。この結果、複数の膵癌培養株で同様の筋分化の抑制が確認された。特に、より悪性度の高い細胞株で強い筋分化抑制作用が認められた。共培養実験下での筋芽細胞よりRNAを回収し、トランスクリプトーム解析を行ったところ、筋分化の抑制を来すと報告のある経路の他、複数の新規経路候補が発見された。特に、これまでの報告に多いサイトカインやmTOR経路のみならず、酸化ストレスや炎症や代謝に関わる経路も候補となっている。しかし、上清からのRNA回収とマイクロRNA(miR)については、現時点で効率的な回収方法を探索中であり、次年度に培養上清からのRNA回収の手法を確立するとともに、上記の候補経路が培養上清中でも変動があるか、について検討を行う。In vivo系については、新型コロナウイルス感染症に伴い、実験用のマウスや器具の供給が不安定となったことから、若干の遅れが認められている。新規実験が中止となった時期もあったが、ヒト由来膵癌細胞株の同所移植マウスより筋肉を採取した。この結果、腫瘍ボリュームと骨格筋量の間にはある程度の相関関係が認められた。これはより高度な膵癌進展例において、骨格筋量の低下が起こりやすいことを示唆しており、In vitro系の結果とも合致する結果が得られている。筋分化の抑制を解除する候補薬剤の選択については、In vitro系において培養上清に薬剤を添加することにより、抑制された筋分化マーカーが一定程度回復することが示された。複数の初代培養細胞株で抑制解除の可能性が示唆されており、引き続き検討中である。
3: やや遅れている
In vitroにおいては、複数の培養株において強い筋分化の抑制が認められたことから、概ね予定通りに施行している。特に培養上清への薬剤添加により筋分化の抑制が解除されたことは、そのメカニズムに迫る意義、治療薬を発見する意義の双方から有益であった。筋芽細胞より回収したmiRについては、複数のmiRについてqPCR法で解析を行ったが、前年度のmiR-133c以外に有意な差が認められたものはなく、また、筋芽細胞より回収したRNAより候補となる経路がある程度同定できたことから、miR以外の関与についても検討を進めている。筋芽細胞と腫瘍細胞のクロストークという核心に迫るためには培養上清からのRNA・miRの抽出が不可欠と考えている。現在、複数の手法について検討を行っているが、最終的には培養上清から回収したRNAに対してトランスクリプトーム解析やマイクロアレイ解析などが必要となる可能性も考慮し、実験を進めている。一方、本年度は新型コロナウイルス感染症によりマウス飼育用物品の供給不足が一時的に発生した。このため、In vivo系の実験に若干の遅れが認められている。本実験系では、比較的長期間に渡りマウスの飼育が必要であり、物品の安定供給の見通しがたった時点で実験を再開する予定である。すでに昨年度までの段階で同系膵癌の同所移植モデルで骨格筋量の低下が認められている。このため、本年度は上記In vitroの実験系で判明した筋分化抑制を解除する候補薬剤について、マウスに自由飲水させる系などを用いてIn vivoでの再現性を確認する予定である。またIn vitro系と同様に、複数の初代培養細胞株を用いて、腫瘍の悪性度と筋分化マーカーの発現抑制についての相関関係の確認が必要と考えている。
本年度は下記を目標に研究を展開する。①In vitro系:膵癌初代培養細胞株の他、昨年度よりヒト由来膵癌細胞株を入手した。この細胞株を用いて共培養実験を行うことにより、よりヒト膵癌に近い形で共培養実験を行い、膵癌初代培養細胞株と同様の結果が得られるか確認する。また、昨年度の研究より明らかとなった候補経路をもとに、特定の分子をsi-RNAまたはsh-RNAを用いてノックダウンすることにより、In vitro系で得られた筋分化抑制作用が解除されるか否かについても検討を行う。②バイオマーカーの探索:培養上清中のmiRだけではなくExtracellular vesicle(EV)に検討対象を拡大し、これらの関与があるかについて検討を行う。EVを抑制する薬剤を培養上清中に添加し、①で示した共培養系における筋芽細胞の分化抑制が解除されるかを検討する。これにより筋分化抑制が解除された場合、培養上清からマイクロアレイ解析などで候補分子、miRを同定する。一方、筋分化抑制が解除されなかった場合は、培養上清からトランスクリプトーム解析を行い、候補となる経路をさらに検討する。③In vivo系:昨年度同定できた候補薬剤を同系膵癌の同所移植マウスに自由飲水させることによりマウスの骨格筋量が維持されるかについて検討を行う。また得られた筋肉よりミオシン重鎖の免疫染色を行い、実際に筋繊維の萎縮・廃用とその回復が起こっているかについても確認すると同時に、Western blot法やqPCR法を用いて、筋分化マーカーの発現低下・回復についても確認を行う。
本年度は新型コロナウイルス感染症の拡大によりマウスを使用した実験が一時的に中断した影響があり、次年度使用額が生じた。また、PCR試薬(サイバーグリーンマスターミックス)や細胞培養液、添加試薬などは研究室内で一括して発注したり、キャンペーン期間を利用するなどして削減することができたため、額面より低い金額で購入することができた。次年度使用額については、引き続き候補薬剤の試薬購入費用に充てるとともに、今後トランスクリプトーム解析やマイクロアレイ解析を追加して行う可能性が高いため、これに充当する。
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