本研究においては、内視鏡生検検体を用いて消化管腫瘍のRNAを抽出し遺伝子発現解析を行う。特に腺腫といった前癌病変や早期癌の初期発症の分子メカニズムを解明すること目的としており、これらの有効な診断法・治療法の確立や化学療法予測を可能にするという点で臨床的意義が大きいと考えられる。 我々は十二指腸腫瘍腺腫及び早期癌、胃管状腺癌(tub1)及び腺腫、大腸鋸歯状病変(SSA/Pと過形成ポリープ)ついて病変部および周囲正常部から生検を行い、これまでに100症例以上の検体を蓄積している。安定的・継続的な検体の採取および蓄積は、研究の妥当性を担保するとともに、十二指腸腫瘍のような稀少な腫瘍発症の分子メカニズムを解明するためには必要不可欠である。 研究期間内では十二指腸腺腫及び早期癌検体の解析について先行して解析を行っており、mRNA/miRNAの同時発現解析を行い、ゲノムインフォマティクスの専門家の協力を得て、腫瘍特異的なmiRNA を特定した。十二指腸腫瘍においてはmiR-135b-5pの発現が上昇しており、ターゲット遺伝子として複数のアルゴリズムでAPC遺伝子が推定された。更にGSEAを用いたpathway解析ではAPC遺伝子及びWnt pathwayとの関連が強く示唆された。 そこでCell lineを用いた検討ではmiR-135b-5pの発現上昇を誘導したところ、APCタンパクの発現が低下し、Wnt pathwayを亢進し腫瘍形成に寄与している可能性が示唆された。最後にFFPE検体を用いてmiR-135b-5p のin situ hybridizationによる検出とb-cateninの免疫染色を施行したところ、β-cateninの異常蓄積(84.2%)とmiR-135b-5pの発現上昇(78.9%)の相関を認めた。
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