研究課題
2019年度は肝癌細胞による肝星細胞オートファジーを介した肝癌発育進展機構を明らかにすることを目的として主に細胞実験・動物実験による検証を行った。細胞実験では肝癌細胞と共培養することによって肝星細胞のオートファジーが亢進し、共培養によって肝癌細胞の増殖が亢進することを予備検討で確認していたため、肝星細胞のオートファジー必須タンパクであるAtg7をノックアウトした細胞株を作成した。この細胞を使用してゼノグラフトモデルで共移植実験を行い、肝星細胞のAtg7のノックアウトにより腫瘍増大が抑制された。そのメカニズム検証のために、肝癌細胞との共培養実験を行って肝星細胞における分泌タンパクの変化を検証した。その結果、肝星細胞におけるGDF15(Growth and differentiation factor 15)の発現が肝癌細胞と共培養時に上昇し、Atg7のノックアウトで減少することを同定した。2020年度にはGDF15をノックアウトした細胞株を樹立し、共培養実験・ゼノグラフトモデルによる検証を行う予定である。動物実験では星細胞特異的にAtg7をノックアウトしたマウスに対してストレプトゾトシンと高脂肪食を与えることで肝発癌を誘導し、その表現型の変化を検証した。その結果、星細胞特異的にAtg7をノックアウトしたマウスにおいて有意に肝腫瘍の最大腫瘍径および腫瘍個数が抑制され、背景肝の線維化も抑制された。2020年度にはこれらの腫瘍の組織学的検討を行う。臨床試料を用いた検証においては酵素処理による肝切除症例の腫瘍部・非腫瘍部の細胞分離を行い、より生細胞が多くなる条件検討を行った。また、肝癌治療目的で入院された症例の保存血清を収集し、臨床背景のデータベースを作成した。
2: おおむね順調に進展している
細胞株を用いた検討においてはゼノグラフト実験で免疫不全マウスに肝癌細胞株と肝星細胞株を共移植することで腫瘍増大が抑制されることを証明した。また、共培養時に有意に変化するGDF15を同定し、当初2020年度に作成する予定であった、GDF15をノックアウトした細胞を2019年度に前倒しして作成した。2020年度はこの細胞株を用いて肝癌細胞の増殖について共培養実験やゼノグラフト腫瘍で検証する予定である。おおむね2019年度の予定は達成している。動物実験においては野生型・肝星細胞のAtg7をノックアウトしたマウス11匹ずつに対して肝発癌を誘導してその表現型を確認した。予定としていた個体数に到達したため、次年度は組織学的検討を追加する予定である。おおむね2019年度の予定は達成している。臨床検体を用いた検討においては、シングルセルシークエンスを行うためのサンプル調整について条件検討を行い、次年度より随時解析していく予定である。おおむね2019年度の予定は達成している。
細胞株を用いた検討においてはGDF15をノックアウトした肝星細胞株をすでに作成しているため、共培養・ゼノグラフト実験で肝癌細胞にたいする影響を検証する。動物実験においてはすでに回収した組織を利用して免疫染色・タンパク・RNA発現を測定し、肝星細胞のAtg7をノックアウトしたことで生じる変化を検証する。臨床検体を用いた検討においては肝癌組織のシングルセルシークエンスを行い、肝癌内の肝星細胞の遺伝子発現の変化を検証する。保存血清をもちいてGDF15の血清濃度を測定し、臨床データとの関連を解析する。
すべて 2020 2019
すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)