研究課題/領域番号 |
19K17500
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 健 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (50806106)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 膵臓癌 / 上皮間葉転換 |
研究実績の概要 |
膵癌は5年生存率が10%に満たない予後不良な疾患である.膵癌細胞では上皮間葉転換(EMT)が起こりやすいとされ,局所浸潤・転移を起こしやすい一因とされている.その発現低下がEMTを介して腫瘍進展に関与する分子としてE-cadherin(Cdh1)に着目し,動物モデル及びヒト臨床検体を用いて本研究を実施した.①動物モデルの膵癌におけるCDH1とEMTの機能解析:タモキシフェン(TM)誘導性creリコンビナーゼシステムが導入されたPtf1a-creERTマウスをKrasG12D/+と交配したPtf1a-creERT/LSL-KrasG12D/+(PK)と,これにCDH1f/fを交配しPtf1a-creERT/Cdh1f/f/LSL-KrasG12D/+(PKC)を作成し,膵癌の浸潤および転移への影響を検討した.PKと比較し,PKCでは,PanIN形成の促進,Vimentin陽性腫瘍細胞の間質への浸潤を認め,EMTが促進された. PKCより樹立した細胞株にレンチウイルスを用いてCDH1を再発現させた細胞株と,欠損したままのPKC細胞株に対して,マイクロアレイを用いて遺伝子発現の多寡を検索したところ,ヒストン脱アセチル化に関与するHdac1の発現がPKC細胞株で亢進していた.Hdac1阻害剤を用いるとPKC細胞株の細胞増殖が抑制されたため,CDH1発現が低下した膵癌に対する治療への応用が期待できるものと考える.②細胞レベルの検討と阻害物質のスクリーニング:前年度は行うことができなかった.③膵癌臨床検体からの膵癌細胞株の樹立と阻害剤の応用:2020年5月時点で,18症例に対してFNA検体を用いてオルガノイド培養を行い,14例で培養に成功し,6例で株の樹立に成功(現在樹立中のものを除く)している.樹立細胞株を増やし,薬剤スクリーニングを行える体制の構築を目指していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
動物モデルを用いたCDH1の膵癌における役割については,研究実績の概要に示したように,PKCにおいてPanIN形成の亢進,EMTの促進が起こることを示すことができた.また,CD44やKlf4といった幹細胞マーカーの発現が亢進していることも示すことができた.CDH1の欠損により,Hdac1の発現が亢進する機序については解明できていないが,Hdac1を阻害することで細胞増殖を抑えられることが示され,治療への応用が期待される(これらの内容は,Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatologyに2019年9月にacceptされ,論文化することができた).しかし,Hdac阻害剤は,膵癌に対して臨床応用され治験に進んでいるものがあるものの,その有効性は十分に示されておらず,Hdac阻害剤を即座に臨床応用することは難しいと思われる.治療効果が望める患者を選定するうえで,CDH1の発現量などが応用できる可能性はあるが,切除不能膵癌において,CDH1の発現量を定量的に評価することは難しく,今後の検討課題と考える.細胞レベルでの阻害剤のスクリーニングは,アッセイ系の確立に難渋しており,進捗していない状況であり,今年度の課題である.膵臓モデル検体を用いたオルガノイド培養に関しては,株の樹立に成功するなど一定の成果を上げているが,目標症例数には達しておらず,薬剤スクリーニングを行う体制の整備までには至っていない.
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今後の研究の推進方策 |
動物モデルにおける膵癌におけるCDH1とEMTの機能解析については,CDH1の欠損によりHdac1の発現が亢進することを示すことができ,腫瘍増殖に関与していることが示唆されたが,その機序は十分に把握できておらず,解決すべき課題が多く残っている.膵癌患者のうち,腫瘍におけるCDH1の発現が低下している症例においては,Hdac阻害剤が効果を示す可能性があると考えられるが,CDH1の発現低下をどのようにして評価するかが課題である.手術検体を用いたCDH1の発現を評価した論文はあるが,化学療法が適応となる切除不能膵癌では,超音波内視鏡下穿刺吸引組織診(EUS-FNA)など比較的小さな検体しか得られない場合が多い.十分な組織が得られない症例での評価法を確立する必要があると考えられ,EUS-FNA検体を用いた評価法の確立を検討していく.また,腫瘍抑制遺伝子であるp53を欠損させた遺伝子改変マウスをPKCにさらに掛け合わせ,より悪性度の高い膵癌の動物モデルを用いることで,CDH1の膵癌における役割について更なる解析を行っていく. 阻害薬のスクリーニングに関しては,組織の保存・運搬方法や培養条件の改善などを行い,膵癌臨床検体からのオルガノイド培養の樹立効率を高める努力を行っており,スクリーニングを行う体制を構築していく.マンパワーの問題も少なからずあるため,培養可能な人員の確保などハード面の充実も並行して行っていく予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,学会発表を行う機会がなく,旅費が発生しなかった.また,オルガノイド培養での樹立件数が予定件数に達さず,阻害剤スクリーニングなども行えなかったため,相対的に試薬などに用いる費用の出費が少なくなった.次年度は,オルガオノイド樹立の件数増加を目指し,阻害剤スクリーニングを行うために当該年度より試薬の費用を含め,予算が多くかかると考えられ,当該年度より繰り越した助成金を利用し,研究を進めていく予定である.
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